「エメーリャ、エメーリャ、ボクを水に戻してください、ボクは君の願うことを何だって全部かなえますから(*4)」
「わかったよ、まずお前がおれをだましてないということを見せてくれたら、おまえを放してあげよう」
かますはたずねました。
「エメーリャ、エメーリャ、今何が欲しいか言ってごらんなさい」
「バケツがひとりで勝手に家に帰って、水を一てきもこぼさずに運んで欲しいな」
かますは言いました。
「僕の言葉を覚えてください。願いごとがあるとき、こう言うんです。
『かますの命令により、私の願いにより』 って」
エメーリャも言いました。
― かますのめいれいにより、わたしのねがいにより ―
バケツよ、家にひとりで勝手に帰れ」
そう唱えただけで、バケツはひとりでに山に帰っていきました。 エメーリャはかますを氷の穴に放し、バケツを追いかけました。
バケツが村の中を行くと、人々はびっくりしてしまいました。 そして、エメーリャはおもしろがってくすくす笑いながら、そのあとを歩いていきました。 バケツは家に着くと、勝手に棚に収まりました。エメーリャはペチカに上りました。
それからどれだけか過ぎて、兄嫁はエメーリャに言いました。
「エメーリャ、何ごろごろしてるの? 薪でも割ったらどうなのさ」
「めんどくさいなあ」
「薪を割らないと、兄さんたちが市場から帰ってきても、おみやげはもらえないわよ」
エメーリャはペチカから下りたくありませんでした。かますのことを思い出し、こっそりと言いました。
「―かますのめいれいにより、わたしのねがいにより―
斧よ、まきをわれ、まきは自分で家に帰って、ペチカに入れ」
斧は台から飛び出すと、外に出て薪を割りました。 そして薪はひとりでに家に帰り、ひとりでにペチカに放り込まれました。
それからどれだけか過ぎて、兄嫁はエメーリャにまた言いました。
「エメーリャ、薪がもう全然ないわ。森へ行って取ってきてちょうだい」
「じゃあ、それなら自分たちで行ったら?」
「自分たちで行けだって? 森に薪を取りに行くのが私たちの仕事だっていうの?」
「あー、めんどくさいなあ」
「ふうん、ならおみやげはナシね」
仕方がありません。エメーリャはペチカから下りると、靴をはき、服を着ます。 斧とロープを手に取り外に出て、そりに乗りました。
「ねえさん、門をあけて!」
兄嫁はエメーリャに言いました。
「いったい何をするの? ばかね、馬もつながずにそりに乗るなんて」
「馬なんていらないよ」
兄嫁は門をあけて、エメーリャはこっそり言いました。
「―かますのめいれいにより、わたしのねがいにより―
そりよ、森すべってゆけ…」
そりは門を抜けて、馬には追いつけないほど速く滑って行きます。
でも森に行くには町を通らなければいけません。 だから、たくさんの人々を押しつぶしたり、はね飛ばしたりしてしまいました。 人々は叫びました。
「あいつを止めろ! あいつを捕まえるんだ!」
しかし、彼は気にもせずそりを飛ばします。森につきました。
「―かますのめいれいにより、わたしのねがいにより―
斧よ、より乾いたまきを割れ(*5)、そしてまきよ、そりに乗って束になれ」
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