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はっけんの水曜日
 
化粧品売り場が苦手な人いませんか

(text by 大塚 幸代



先週、T・斉藤さんが「写真写りとは何か」という記事を書かれてましたが…。
今回の記事は、「被写体側の気持ちの一例」だと思います。

 

ずっと前から、写真は苦手だった。
化粧もなるたけしたくなかった。

自分の顔に自信がない。正確に言うと、顔と腕と胸と背中とお腹とお尻と太ももとふくらはぎと足に自信がない。
要するにほぼ全部だ。全部全部!
去年「手首から手にかけてキレイですね」と、好意を持っている異性に言われ、自分でも「お、ひょっとしてイケてるかも!」と思えて、そこだけ好きになれた。
でも他は駄目だ。
何でこんなことになっちゃったんだろう、と悩んでいる。

理性では分かる。
他人なんて、人の顔形を、そんなによく見てない。喋りかたや視線、身体のありよう、雰囲気含めて全体でカウントしてるはずだ。
私はびっくりされるほど醜いわけじゃない。とくに容姿に左右される職業でもないし。

でも−−例えばこのデイリーポータルZの記事を作る中で−−皆さんに見せる写真を撮る必要が、あったりする。

これがうまくいかない。
顔に自信がないから、写真を撮られるのは当然、苦痛になる。表情がひきつるし、動きもカタイ。それでも騙し騙し撮っている。

髪をのばしてみたり、それでも弱気な時は、帽子を深く被ってみたり。
視力がないからメガネにするのもアリなのだが、鼻の付け根が低くて、すぐズリ落ちるので断念した。
「私がもし男だったら、アフロにしてサングラスかけてヒゲはやすとかして、顔全部隠しちゃうのになあ」とか、変なことを思ったりもした。

あまりにも自信がなさすぎるので、化粧をまたいでアートメイク(いわゆる入れ墨)をしたりした。
アイラインは、粘膜きわきわに入れるので、超絶、痛かった。
この年になって、アイプチを常用するようになった。シワっぽいものが出来たのはいいが、「あれ? 目もと変わりましたね」と言われるたび、ビクビクするようになった。
顔を気にかけていることを、言及されるのが辛いのです。
ワシ女子高生か? と思うほど、ナイーブだ。
というか、はっきり言ってヤバい域だろう。

「ぬあー、自分の問題意識には、立ち向かって行って、解決していくべきだ。
よし、今回の企画は化粧だ。新宿伊勢丹の1階の化粧品売り場で、『ナンパされる口紅教えてくださーい』とか言って、化粧してもらって、チャラチャラ歩いてみよう、そういうのやったことないし。
というか、自分にとっては、道ばたでダイインするより何より、それ恐怖なことだし!」
と思った。

で、東京いちイケてるデパート、新宿伊勢丹の1階化粧品フロアに向かったのです。

 

イセタン前にて。この時点では、まだ精神的余裕があったのだが。

 

ライターの佐倉さんが同行してくれた。
「あー、色んな有名どころのブースに行って、うまいことトークすればいいんですよね? 私そういうの得意ッスよ! ふふふ」
佐倉さんは美容研究家女子。化粧もうまい。実はモデル的な仕事もやっている。
彼女は私のお友達の中で、いつもキレイにお化粧してる、唯一の人かもしれない。
類友なのか……私の周りの女子は、みんな、ほぼスッピンだ。それについて語り合ったり、したことはないんだけど。

某ディオールのカウンターに行く。まずは佐倉さんをフルメイクしてもらうことに。

問診票っぽいものに、書き込んでます。

佐倉さんは「化粧品は買うけど、化粧品カウンターには行かない」派だそうで、面白がってやってくれた。

「たぶん20分くらいじゃないか?」という予想を超えて、フルメイクに1時間かかった。私はぼーっとそれを見学していた。作られていく顔。


元もキレイにお化粧してますが、「夜用メイク」をオーダーしたら、ものすごく華やかになりました。

顔をビルドしていくにあたって、使われた化粧品をメモしてくれます。

新宿という土地柄のせいか、いろんな年代の人がやって来る。親子でやってくる人、男性同士のカップルも。店員さんの年代もさまざまだ。
きれいな色を手にとって、笑顔できゃあきゃあ品定めしている。
楽しそう。

 

私も、化粧品ブースに来るのが初めて、というわけじゃない。

学生の頃、池袋西武のクラランスに行ったのが初めてだ。
「今のニキビが、そのうち全部シミになるから、この基礎化粧品をそろえろ」と買わされた。使い続けなかったせいか、本当にみんなシミになった。
20代の時、どの色のファンデを選んだらいいのか分からなくなって、今回と同じ新宿伊勢丹のM・A・Cに行ったら、美容部員さんの機嫌がたまたま悪かったのだか何だか、すごくおざなりに対応されて、テキトーな色を買わされた。
それはやっぱり気にいらなくって、使いきれずに捨てた。
恋もそうだけれど、化粧品に関しても「初めての相手って大事なんじゃないだろーか」と想像する。

「時間なくなっちゃいましたね。じゃあシャネル行ってみましょうか?」
佐倉さんと某シャネルのブースに行く。フルメイクは予約制とのことだったが、ルージュだったらサクッと塗ってくれるという。


この辺でもう、取材モードにあらず。

下地クリームを塗る手が震えています。

塗られる唇が震えています。

担当してくれた年配の美容部員さんが、「緊張なさらないでいいですよー」と言う。
しかし震える。
生理的にダメ。
何にも思い付かない。
イヤとかを超えて許容範囲オーバー。
どんどん無言になっていく。
手が冷たくなっていく。

美容部員さんは「じゃあついでに」と、アイメイクと眉なんかも直してくれて、最後には香水もふりかけてくれた。
何か売り付けてくるようなことはなかった。


メイク後。

「顔こわいですよ。笑って笑って! ハイ、可愛く撮れましたよー」
佐倉さんが声をかけてくれたおかげでマシになったが、これでもかなりひきつっている。
目の焦点が合ってない、曖昧な顔をしてる。
キレイとかカワイイとか、モテるとかモテないとかいう問題じゃなく。

このあと、他ブースも見て回りたかったのだが、そんな余裕はく、ナンパ取材もやめた。
(でも新宿駅に向かうまでに、佐倉さんはきっちりナンパをされていた)。

そのまま、渋谷で見たいライブがあったので、山手線に乗った。
移動中、「私みたいな人、実は多いんじゃないだろうか」とか、考えていた。
化粧が出来ないと一人前の大人じゃない、というのは、例えば「人前でスピーチが出来ないとダメ」というような、社会のオキテになっている気がする。
「慣れ」、なんだろうか。単に「慣れ」なんだろうか?
幸福なことに、日々フルメイクでなくてはならない職場で、働いたことがない。
化粧が苦痛な女子たちは、どうやってそれを、やりすごしているのだろう……。

電車内、ガラスに写った顔を再び見る。
まず、顔に粉が乗ってる状態が気持ち悪い。「粉が顔をかくしてくれている」という気持ちと、「口紅なんか付けて、顔をアピールしてるのがイヤ」という気持ちが、交互に襲ってくる。
隠してるのか、出してるのか。
私は誰なのか、どうしたいのか。

ライブ中、途中で耐えられなくなって帰った。
ヨロヨロとアパートに戻って化粧を落とす。

 

自分の顔を好きになれたら、どんなにいいだろう。
キレイは自信からやって来るのだと思う。
どうやったら自信ってつけられるんだろう。
30過半ばでこのていたらく。
なんだこの少女で処女みたいな状態は。

ライクアヴァージン、フー!(あ、マドンナ@東京ドーム、観に行きました…)

全部自分でやらなきゃいけないんだろうなあと、薄々気がついている。
「だいじょうぶ」「おっけー、かわいいかわいい!」というのは、誰かが言ってくれるんではなく、自分で自分に言わないといけないことなんだろう。
前途多難。
残りの人生で、克服出来るのかしら?

とりあえずしばらくは、フルメイクは冠婚葬祭の時だけで勘弁させてください…。


 

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