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はっけんの水曜日
 
ロブスターを雑に食う

(text by 大塚 幸代



昨年末、実家に帰ったとき、「ただいまー」と玄関をあけると、こんなものがデーンと置いてあった。

「……何だこりゃ? クール宅急便?」と思って、パカッと開けてみたところ、

なんだかでかい、ザリガニのようなものが……。
「………」
思わず絶句。
日本の一般家庭に、こんなものがナゼ置いてあるのか……。
持ち上げて見たら、しっぽをビバババババッと振る振る。足をわきわき動かす。うわあ。うわああああ。



「お母さん、おかあさーん!」
「あ、おかえり」
「玄関の……何アレ? どうしたの?」
「ああ、お姉さんが送ってきたのよ…」
母の姉……私のおばは、戦後、アメリカにあこがれ、アメリカ行ってアメリカ人と結婚してアメリカ人になっちゃったという人だ。
「おばさんて……今、カリフォルニアに住んでるんだっけ?」
「そうよ」
よく箱を見ると、伝票にカリフォルニアの住所が書いてあった。
「おばさん、アメリカで何やってるんだっけ? 美容師なんだっけ?」
「そう、美容師」
「もう引退してるんだっけ?」
「ほぼ引退してるみたいね、昔はテリー・サバラスの、お気に入りだったらしいけど……『刑事コジャック』の俳優」
「その話、前に聞いたなあ……そんで思ったんだけど、あの俳優さ、スキンヘッドじゃない? ……あの頭髪のヘアメイクって何してたのかなーって、ナゾだったのよね」
「いや、髪の毛じゃなくて……ネイルケア? ネイルの美容師だったのよ、お姉さん」
「へー、今のネイルアートの走りみたいなもんか。しかしいきなりこんな…ロブスターかあ。西海岸からロブスター…」
「私への誕生日プレゼントだって。でも、兄弟みんなに送ってるみたいだけど。そして全員、困惑してるみたいだけど」

イケイケなアメリカのおばが、思いつきで送ってきた贈り物、ロブスター6匹。
嬉しい。気持ちアゲアゲだ。しかし、正月に家族が集まるので消費出来るからいいけれど、一人暮らしだったら心底困るだろうなあ……と思いながら眺めてしまった。

「……で、これ、どうするの」
「どうしたらいいのか、よく分からないのよねえ…」
「わかんないよねえ…」
「要するにエビなのよね」
「エビですね」
「だからとりあえず、沸騰したお湯に塩入れて、茹でようかと思うんだけど」
そう言うと母は、ロブスターの身体を、ごりごりタワシで洗いはじめた。
タ、タワシ!? 雑じゃない!?



「かわいそう、かわいそう」と言いながら洗う母。変な絵柄。心なしか身体をダラーンとさせるロブスターズ。

6匹重ねられたロブスターズ。かなり諦め入ってます。

うちでいちばんでっかい、パスタを茹でる用のナベに、3びきほど投入。



小さく、キュキュキュー、と鳴いていた。なにげに残酷映像(こういうの、見るの辛い人は、見ないでください)。赤くなっていく殻。


茹で上がった。赤いー。

「……お母さん、こんな機会はもうない気がするから、今すぐ一匹、食べていいかなあ」
「え……いいわよう」

茹であがり、ほかほかのを1匹もらった。
しかし……どうやって食べたらいいのか、全然わからない。

いいや、カニと同じ扱いで、と思って、調理用ハサミと、マヨネーズを持ってきて、大変いいかげんにほじくって、食べた。


ごりごりと、おなかのほうから切り込みを入れて、ほじくってしまった。殻はとても固く、身も固めだった。はさみの大きさは、よく見ると左右が違っていた。きき手があるんだな、と思った。
味は……なんというか、エビの味であった。さすが、さっきまで生きていた「活け」ロブスターだけあって、プリプリ、ブリブリしていた。
「これとビール1本摂取すれば、1食済ませられるな」という量だった。

■テンプラにケチャップ付けてる外人を、批判なんか出来ないよ

雑に食べたあと、ネットで調べたら

  • 活けロブスターは、茹でる、蒸す、グリル加熱、直火焼きの4種類の調理法がある
  • 加熱出来たら、ハサミをはずす→尾をひねって胴からはずす→尾の両側に切り込みを入れ、尾ひれを折ってはずす→胴から背をはずす→胴を割って開ける、という解体法で身をとる
  • 胃袋、殻、エラ、腸、目は食べちゃ駄目
  • 通常は食べやすく処理してから食卓に出す、溶かしバターを付けて食べるのがポピュラー
  • 日を通したら冷やして食べてもオッケー、マヨネーズやカクテルソースをあえるとグー

と、いろんなことが分かった。インターネットって便利ですね。っていうか、食べる前に調べておくべきでした。
テンプラにケチャップ付けて食べてる外人を、批判なんか出来ないなあ、と思った。

ああロブスター。海老の赤は生命を表すので、縁起がいいのだというけれど、こんな贅沢な食べ方をしたんだから、2007年はきっといい年になるはず。

遅れましたが、あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします!



 

 
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