■鏡餅が落ちていた
2年前の4月だったか。花見をしに川沿いの花見スポットに出かけたら、その近くの道路に鏡餅が落ちていた。
高見典子は、自分のささやかな胸にコンプレックスを持っていた。しかし、コンプレックスを持ったからといって事態は改善しない。
牛乳を飲んでも脂肪分が多い食事を取ってもなにも変わらず、ウエストだけが太くなってしまった。
そこで、もっと直接的に物理的に問題を解決する事にした。すなわち、パットである。しかし典子は素直にパットを買いに行く事が出来なかった。
想像してみて欲しい。男性が己の小ささに気を病み、股間に入れるパットを容易に買いにいけるかを。無理だろう。典子も無理だった。
典子は友人と花見に行く約束をしていた。そこで友達から男の子を紹介してもらうことになっていた。典子は悩んだ。パットも無しで会って、果たして気に入ってもらえるだろうか。どうしよう。もう花見は明日。今から買いにはいけない。
その時、典子の目にテレビの上に鎮座する鏡餅が飛び込んできた。安さに惹かれて最近2個買った物だった。
「こ、これよ!」
典子に迷いはなかった。鏡餅を胸に仕込み、いざ戦場に赴いた。
結論を書いてしまうと、典子の作戦は失敗に終わった。サイズが合わないブラに鏡餅を仕込んだものだから、駅から花見会場に歩いている途中で鏡餅は落ちてしまったのだ。しかも、最悪なことに、片方だけ。
典子は桜の木の下で片方だけ鏡餅が無いことに気付いた。耳の奥で「ゴーッ」っと血の気が引く音が聞こえた。その時、典子が取った行動は正気を失していたが、事態を好転させる事には成功した。
その時典子は、残った片方の鏡餅をブラの中から出すと、紹介された友人の友人に、「あ、あたためておきました!」と言って渡したのだ。
人肌に温まった鏡餅を渡されたその男性は、なぜかその瞬間典子の事が好きになってしまい、後日正式に付き合う事となった。
その、典子が落とした鏡餅がコレである。 |