特集 2012年10月22日

最安食費研究

これが1つの答え
これが1つの答え
食べることがとても好きな私は、日々の生活でも食事は重要なイベントとして考えている。何を食べるか考えるのは楽しいが、合わせて気になるのが食費だ。 好きなものを好きなだけ食べていると、際限なくかかる食費。普段は適当に価格と内容のバランスを考えて食事をするわけだが、価格の安さを追求して考えたらどうなるだろうか。

どんな内容の食事になるのだろう。そういうわけで、最安食費について研究してみた。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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必要カロリーから見た最安食費

最安食費研究と言っても、できるだけ食べるものを少なく済ます方針は今回取らないこととしたい。それでは単なる我慢大会になってしまいそうだからだ。

研究するからには、ある程度の論拠をもって考えたい。まずは生活を送るのに必要な熱量(カロリー)をベースにして考えよう。
清涼飲料水の倍くらいの価格
清涼飲料水の倍くらいの価格
ハイカロリーな食品としてすぐ思いつくものは油。近所の安売りスーパーに行ってみたところ、1500gで約300円という価格だった。大容量ボトルということもあるが、感覚的に安い。
ザ・普通のおっさん
ザ・普通のおっさん
もし、この油だけで必要なカロリーを摂るとすると、どんな食費が出てくるだろうか。必要なカロリーの基準とするのは自分としよう。

身長171cm、体重64.5kgというのは、一般的な成人男性の平均的な数字だろう。座っていることも多い仕事だが、通勤の往復で平日は1時間強歩いているので、身体活動レベルも普通と考えてよさそうだ。
今回は割とまじめにやるつもり
今回は割とまじめにやるつもり
必要カロリーは、厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準」を参照しよう。これによると、私が当てはまる30~49歳の男性で身体活動レベルが「ふつう」の場合、1日当たりの推定エネルギー必要量は2650kcalとなっている。
油は種類を問わず共通カロリー
油は種類を問わず共通カロリー
油のカロリーは文部科学省が発表している「日本食品標準成分表2010」によると、100g当たり912kcal。表を見ていて気がついたのは、油はどんな原料のものでもカロリーは同じということ。100%脂質なので当たり前なのだろうが、意外にも感じられた発見だった。

さて、この油だけで1日に必要なカロリーを摂る場合をシミュレートしてみよう。計算すると、2650kcalにするためには約287gの油が必要になる。
これが自分に必要な1日分のエネルギー
これが自分に必要な1日分のエネルギー
こうしてペットボトルに入れると、いろいろな感想が湧いてくる。これで1日動けるなら、人間というのは結構省エネルギーな生き物かもしれない。ただ、1日の食事がこれで終わってしまうのは、あまりにも悲しい。
500mlのペットボトル半分強
500mlのペットボトル半分強
このままグイグイいくのはちょっと無理
このままグイグイいくのはちょっと無理
そもそも油をゴクゴク飲むというのは、やっぱりあり得ない。試しに口をつけるふりだけしてみたが、とても飲めそうな気にはならなかった。

しかし今回の狙いはとりあえず実践ではなく、まず研究。計算上どうなるかを知っておくのも目的としたい。
栄養源が油オンリーの場合の食費
栄養源が油オンリーの場合の食費
1500gで300円だったことから計算すると、1日当たりの食費は約58円。1ヶ月(30日)で1727円だ。予想以上に安い。理論上は約1700円で生きていくのに必要なカロリーは摂れることになる。

ただ、やはり油だけを飲んで暮らすというのはあまりにも非現実的。もう少しなんとかなりそうな食品でカロリーをまかなうとしたらどうなるだろうか。
こいつもなかなかやりそうだ
こいつもなかなかやりそうだ
そこで思いついたのは砂糖。1kgで200円というのは、1.5kgで300円だった油とグラム当たりの値段が偶然にも一緒だ。

ただし、カロリー量は油とは異なる。100g当たりのカロリーが油では912kcalだったのに対して、上白糖の場合は384kcal。カロリーベースで考えると、砂糖は油より高級品となる。
これが自分に必要な1日分のエネルギー
これが自分に必要な1日分のエネルギー
1日に必要な2650kal分の上白糖は、約690g。油の場合はコップ一杯だったが、砂糖だとビジュアル的にも結構な量になる。
結構な山盛りだぞ、これ
結構な山盛りだぞ、これ
これを1日かけてちびちびとなめていけば、十分なカロリーが摂れるというわけだ。油よりはまだ現実味があるかもしれない。
砂糖だけ食べて暮らす場合の食費
砂糖だけ食べて暮らす場合の食費
食費を計算すると、1日当たりで138円、1ヶ月で4140円となった。油と比べると約2.4倍の価格だが、これでもかなり安い。

甘い物は好きな方の私だが、個人的に好物と言ってすぐに思いつくのはやはりお肉。これまでの食品と比べると高くなるのは予想がつくが、どれくらいになるのだろう。
たまたま日替わり特価品だった
たまたま日替わり特価品だった
今回は最安食費を研究するのがテーマ。肉類の中で安いものと言えばやはり鶏肉。中でも胸肉は、モモやササミといった他の部位と比べて特に安い。

訪れたスーパーでも100g38円という値段。これで計算してみよう。
3枚で844g
3枚で844g
1日分にはちょっと足りない
1日分にはちょっと足りない
鶏の胸肉は皮付きの場合、100g当たり244kcal。1日に必要な2650kal分の鶏胸肉は、1086gとなる。食費を計算すると、1日当たりで約412円、1ヶ月で約12381円となった。
さすがにこれまでと比べると高級
さすがにこれまでと比べると高級
上白糖と比べると約3倍、油と比べると約7.1倍となる。しかし、最も安い種類と部位とは言え、1ヶ月肉ばっかり食べて12381円と考えれば、肉の割には安いように思える。

ただし、これまでの研究には大きな問題がある。どれにしたって、栄養バランスがめちゃくちゃなのだ。
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栄養バランスも考えた最安食費

ここまで、1つの食品だけを食べるパターンで考えてみた。しかし、現実の食生活を踏まえて考えるならば、栄養バランスにも配慮しなくてはならない。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」には、三大栄養素である、たんぱく質(Protein)・脂質(Fat)・炭水化物(Carbohydrate)のバランスについても記されている。それぞれの英単語の頭文字を取って「PFCバランス」とも呼ばれるようだ。

単一食材の場合、この点からのバランスはめちゃくちゃ。カロリーは満たしていても、油では脂質のみ、上白糖では炭水化物(糖質)のみでしか栄養を摂れていない。
当サイトでバランスに挑戦した記事(こちら</a>)
当サイトでバランスに挑戦した記事(こちら)
では、このPFCバランスも基準を満たすという条件を加えたとき、最安食費はどんな風になるだろうか。これまでの食材を組み合わせて考えてみよう。

まず、たんぱく質。「日本人の食事摂取基準」では、私の場合は1日当たりの推奨摂取量は60g。鶏胸肉には100g当たり19.5gのたんぱく質が含まれているので、60gのたんぱく質を摂るための鶏胸肉の量は約308g。これを確定させる。
「デイリーポータル  					栄養」で検索した記事(こちら</a>)
「デイリーポータル 栄養」で検索した記事(こちら)
続いては脂質。脂質の量は、摂取する総エネルギーに対して、20%以上25%未満にするとよいという基準が示されている。単一食材の比較で、油と上白糖では油の方がコストパフォーマンスがよいことがわかっているので、ここは上限の25%を摂る設定にしよう。

では油を1日分のカロリーである2650kcalのうち25%分摂ればいいかと言うと、そうはならない。確定させた鶏胸肉には、実は100g当たり17.2gの脂質が含まれている。それゆえ、この分を既に摂ったものとして計算しなくてはならない。
エクセルとちまちま格闘
エクセルとちまちま格闘
この算出がややこしいのだが、計算すると鶏胸肉とは別に約21gの油を摂ると全体の25%分のカロリーとなる。

最後に炭水化物。全体の2650kcalから、ここまで出しているたんぱく質と脂質のカロリーを引くと、約1713kcal。これは上白糖で言うと約446g分。
これが1日に摂っていい上白糖の量
これが1日に摂っていい上白糖の量
なんか多い気がする。ただ、計算するとこういうことになるのだ。

カロリー比で全体の約65パーセントとなる。炭水化物は全カロリーの50~70%が基準となっているので、これもPFCバランスを満たしていることになる。

1日3回食事をするとして、それぞれの量をざっと1/3にすると、1食当たりの量は鶏胸肉を100g、油を7g、上白糖を150g。この材料を使った食事を3回食べれば、PFCバランスの正しい食生活、ということに理論上はなる。
とても栄養バランス考えてそうに見えない
とても栄養バランス考えてそうに見えない
とりあえず調理開始
とりあえず調理開始
それぞれの材料の価格と量から算出すると、1食分の材料費は約70円となる。それを3回食べるから、1日の食費は210円だ。
これが栄養バランスが取れてるはずの一食分の食事
これが栄養バランスが取れてるはずの一食分の食事
それぞれの材料の価格と量から算出すると、1食分の材料費は約70円となる。それを3回食べるから、1日の食費は210円だ。さて、できあがったメニューに名前をつけるならば、「鶏胸肉のオイルソテー~ライス風上白糖を添えて~」といったところだろうか。ドリンクは「琉球ガラスのアクアシュガー」と気取ってみた。

いや、アクアシュガーはかっこつけた言い方をしただけで、要は砂糖水。それに使った残りの上白糖をどうしたらよいかわからず、ライス風と名付けてそのまま盛りつけたわけだ。
PFCバランスを考えた上での最安食費
PFCバランスを考えた上での最安食費
1ヶ月分で6300円。これで必要カロリーを満たし、三大栄養素的にバランスのよい食生活を送れることになる。

さて、実際に食べてみよう。まずは肉を食べる。これがおいしいのはわかってる。問題はそこから先なのだ。砂糖をスプーン山盛りにして、いってみよう。
考えてみれば砂糖ってこうして食べない
考えてみれば砂糖ってこうして食べない
ん?…んん?
ん?…んん?
感想は意外にも「砂糖ってうまい」というものだった。溶かせばじんわり、噛めばジョリジョリ、違った食感から甘さが広がってくる。

もっとただただ甘いだけかと思っていたが、ちゃんとおいしい。こんな風に食べるのは、子供の頃に半分いたずらで食べて以来だろうか。
でも、もういいかな
でも、もういいかな
ただ、そう思えるのもひと口かふた口くらいまで。とにかく上白糖の存在感がすごい。鶏のソテーには塩を使ったので、交代で食べると味のめりはりを一応つけられるのだが、それにしても甘さからどう逃れるかが食事の流れのテーマになってしまう。食事の楽しさという点では、相当厳しいものと言わざるを得ない。

普通の弁当、うまそう!
普通の弁当、うまそう!

食事の栄養バランスには、ビタミンやミネラルも当然重要になってくるだろう。今回その部分は無視しているので、この食事がトータルの栄養的に優れているとはとても言えない。ただ理屈の上で、三大栄養素の面ではバランスの取れた食事を1ヶ月6300円で食べられることがわかった。

まあ総合ビタミン・ミネラルのサプリメントは1ヶ月分500円程度から手に入るだろうから、それを追加すればさらに栄養バランスはよくなるだろうか。しかしそんなことより今回の研究ではっきり実感したのは、普通に食べてる普通の食事がやっぱりうまい、ということだったりもする。
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