特集 2013年1月7日

沖縄パーラーミステリアスメニュー

方向性が多様で情報を処理しきれない
方向性が多様で情報を処理しきれない
「パーラー」という言葉を聞いて、どんなものを思い出すだろうか。関東に住んでいる私の場合、まず頭に浮かぶのはフルーツパーラーかパチンコ屋だ。

しかし沖縄の場合、パーラーと言うとまた別の意味になる。食堂やカフェが近い言葉になるのだろうが、ややニュアンスが違うようにも思える。

そんな沖縄のパーラー、中には名前だけでは今ひとつ具体像の見えないメニューを出す店がある。そんなミステリアスなメニューを探してみたい。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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沖縄に根付く軽食処「パーラー」

パーラーとは英語で書くと「parlor」で、辞書で最初に載っている意味は「店舗」。その意味をある程度保持しながら、食堂ともカフェとも微妙に異なる種類の店として土地に根付いたようだ。
よく見ると、向こうから犬がこっち見てる
よく見ると、向こうから犬がこっち見てる
上の写真のパーラーは公園のすぐそばにあり、揚げパンなどのおやつを売っていた。近くには地元の子供たちがうろちょろしている。パーラーという名前ではなくても、どこの町にもこういう店ってあると思う。
こちらはアイスクリーム専門店
こちらはアイスクリーム専門店
タコライスという食事系のパーラーも
タコライスという食事系のパーラーも
ただ、沖縄のパーラーはおやつ系の店ばかりではなく、甘味や軽食を出す店としてもその名が冠されている。アイスやタコライスをメインに扱う店も見かけるなど、幅広く用いられる言葉のようだ。
沖縄名物の台風が心配なたたずまい
沖縄名物の台風が心配なたたずまい
中でも味わい深く感じたのは、古くからありそうな雰囲気を漂わせるパーラー。写真は国頭村にある「パーラー三角」というお店。店名の由来は三角形の形で海に突き出している土地にあるからとのこと。クラシックタイプのパーラーとして入ってみよう
こういう雰囲気の場所がイートスペース
こういう雰囲気の場所がイートスペース
バーガー類と並ぶ「レバニラ」が気になる
バーガー類と並ぶ「レバニラ」が気になる
パーラーは持ち帰り用に食べ物を売るだけでなく、その場で食べるためのスペースがある場合も多い。カチッとしたレストランというよりも、風通しのいい海の家のような雰囲気のところもしばしばあるようだ。

このパーラーはハンバーガーやホットドッグがメインでありそうに見えるが、中にはレバニラもあるのが気になる。ラインナップ構成としては気になるが、実体としてはおなじみのもの。ここはパーラーの定番品を確かめる意味で、チキンバーガーを注文してみた。
気前のいいはみ出し方
気前のいいはみ出し方
パンからチキンカツが大きくはみ出している元気のよさ。手元に来るまでしばらく待ったのは、作り置きではなく注文後に作り始めるから。だから熱々だろうなとわかっているのに、つい大きくかじりついてやっぱりアチーッとなる。

そういうことも楽しいパーラーなのだが、中には名前を見ただけでは実体をイメージしづらいものを出す店もある。
寿司ののぼりがたなびくパーラー
寿司ののぼりがたなびくパーラー
寿司はともかく、なんか気になるのがある
寿司はともかく、なんか気になるのがある
こちらの店は豊見城市にある「パーラーまっぴ~」。店の前に立つのぼりには、大東寿司という県内の島特有のお寿司がアピールされている。

寿司を出すパーラーというのは珍しいと思うが、大東寿司そのものは郷土料理として広く知られているもの。気になるメニューは別にある。
よく見るとこんにゃくの中に何かが透けて見える
よく見るとこんにゃくの中に何かが透けて見える
それは「こんにゃくバーグ」なるもの。来訪時は「今日は作ってないのよ~」とのことで食べられなかったが、話をうかがったおかみさんによると、こんにゃくの中に具が入っているというオリジナル料理とのこと。

自分の中のバーグ観とは異なるビジュアルが新鮮。こんにゃくが透けて中身が見えるのも、なんとなくなまめかしい。旅程上どうしても食べられなかったのが残念だが、まだ見ぬメニューを求めて他のパーラーを探してみよう。
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価格設定もミステリアスなパーラーメニュー

続いて紹介するのは、沖縄市にある「パーラーどんちゃん」。イートスペースには近所とおぼしき中高生がうなりをあげていて、地元への密着度が高そうなお店だ。
住宅街の中という立地が本格派
住宅街の中という立地が本格派
中高生だけでなく大人も呼び込む魔力
中高生だけでなく大人も呼び込む魔力
このお店はまず価格にインパクトがある。4種類の弁当は250円、おにぎりは50円とかなり安い。ただよく見ると、値段の安さ以外にも気になるものが混ざっている。
全てを倍の価格にしても普通
全てを倍の価格にしても普通
「ポークエンドタマゴ弁当」は接続詞の発音が気になるが、実体は大体見当がつくもの。じっくり見つめてひっかかったのは、「コーンドンブリ(200円)」と「アゲサンド(50円を修正して70円)」だ。

イメージできそうで、頭に浮かべた像がどうもぼんやりするのがミステリアスメニュー。この2つを注文してみよう。
コーンドンブリ、200円
コーンドンブリ、200円
ほじってうれしい肉発掘システム
ほじってうれしい肉発掘システム
こちらがコーンドンブリ。実物が来て実体を目にしても、すごく変とまで感じはしない。この「ふーん感」を味わうのがミステリアスメニューと向き合う姿勢なのかもしれない。

「コーン入りクリームシチューかけご飯」という見た目は、そのまま実体とぴったり一致。子供の頃、夕飯にクリームシチューが出たとき、こうしたことあるわと思い出される料理だ。

それでもシチュー部分をすくうと、柔らかい鶏肉が出てきてうれしい。改めて200円だと思い出すとすごい。
こちらがアゲサンド、70円
こちらがアゲサンド、70円
ハム・チーズ・マヨネーズを確認
ハム・チーズ・マヨネーズを確認
アゲサンドの実体は、チーズやハムを挟んだパンを揚げたもの。アゲサンドという言葉を初めて目にして感じた謎めいた印象が、「なるほど!」というよりは、「ふーん」と曖昧にほどけていく。コーンドンブリに負けず劣らずのふーん感だ。

かじりつくと、その構成通りの味がする食べ物だとわかる。それは期待を裏切らないうまさと言ってもいいわけだ。

続いてはうるま市にある「佐久田パーラー」。
看板に見慣れないシステムが
看板に見慣れないシステムが
黄色い軒をよく見ると、うっすらと店名の跡が確認できる。年季の入ったお店のようだが、建物のたたずまい以外にも気になるところがある。
なんかおかしなことが書いてある
なんかおかしなことが書いてある
一部薄くて注視を要求されるメニュー
一部薄くて注視を要求されるメニュー
まずやっぱり目にはいるのが「ヤギ汁食べ放題」。ヤギ汁+食べ放題という言葉のつながりが画期的。考えたこともないバイキングだ。

これはかなり気になるのだが、詳しい様子は当サイトに記事を寄せている沖縄情報サイト「DEEokinawa」で詳しくレポートされているので、こちらを参照してほしい。

メニューにおけるミステリアスは、品物そのものだけではなく、価格に感じることもある。ここではそれぞれ100円だという沖縄そばとタコライスを試してみよう。
衝撃の三枚肉
衝撃の三枚肉
まずは沖縄そば。沖縄では100円で沖縄そばを出す店はそれほど珍しくないようだが、それにしてもこの充実度はどうだろう。それなりに厚みと面積のある三枚肉が載っている。全体の量もとても少ないわけではなく、おやつ以上の満足感がある。
輪ゴムで真ん中がひしゃげててかわいい
輪ゴムで真ん中がひしゃげててかわいい
こちらの量も100円としては期待以上
こちらの量も100円としては期待以上
こちらは100円タコライス。注文した時、お店の方に「100円のはほんとちっちゃいよ」と言われたが、その言葉からイメージしていたよりも大きい。割り箸の長さと比べると、それなりのサイズがあるのがわかるだろう。
本当にタコライスだ
本当にタコライスだ
赤いソースこそケチャップ風で簡略化されているかも知れないが、ひき肉・チーズ・野菜というタコライスの要素はしっかり満たしていて値段が信じがたい内容。これはばっちりとタコライスだ。
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タコライスの町でタコライスじゃないライスを食べる

続いてやってきたのは金武町。ここは町全体でタコライスをアピールしているところで、タコライスの発祥とされるパーラーがある。
店名より「タコライス発祥の店」が目立つ
店名より「タコライス発祥の店」が目立つ
ぐいぐい元祖でおしてくる
ぐいぐい元祖でおしてくる
タコライスはこの「パーラー千里」で1980年代に生まれたとされる。実のところ歴史はそれほど長くない。

ただ、タコライスは既に有名なメニューであり、こちらの場合は値段もミステリアスというわけではない。しかしメニューには他に気になる名前のものがある。
ひとつ妙に自由な名前のメニューが
ひとつ妙に自由な名前のメニューが
真ん中にあるチキンナゲットはわかるが、その上の「チキンバラバラ」が謎。

有名な店だけあってネット上にはたくさんの来訪記があり、それらを読むとこのチキンバラバラとは、いわゆるフライドチキンであるようだ。「バラバラ」部分の語源は「チキンのいろんな部位がバラバラに入っているから」という説も見られた。この町では別のパーラーを訪れてみよう。
これまでで一番シャキッとした店構え
これまでで一番シャキッとした店構え
サボテンがメキシカンな店内
サボテンがメキシカンな店内
やってきたのは「パーラー リトルキッチン」というお店。これまでの風通しのよかった店とは異なり、ちゃんとした屋内に食べるスペースがあるタイプの店だ。
ご飯系メニューが充実のメニュー
ご飯系メニューが充実のメニュー
写真のないこのメニューが気になる
写真のないこのメニューが気になる
こちらもタコライスがメニューの一番上にあるお店なのだが、気になったのはメニュー最下部にあった「フライライス」というもの。他のは写真入りで載っているのに、こちらは写真がなく文字だけ。

バリエーションがいくつかあるが、その中から今回は「ビーフフライライス」を注文してみた。
ものすごい既視感
ものすごい既視感
これがビーフフライライスである。個人的に衝撃がなかったのは、注文するときに店員さんに「フライライスってなんですか?」と訊いたところ、「チャーハンです」と即答されたからだ。
セット名ではよく見慣れた文字が
セット名ではよく見慣れた文字が
どんな名前であろうとおいしい
どんな名前であろうとおいしい
他に説明のしようがないくらいにチャーハンであるフライライス。よくよく調べてみたら、英語で「fried rice」と言えばチャーハンのことであるらしい。
建物もアメリカンな町並み
建物もアメリカンな町並み
国籍不明だけどすごいカラーリング
国籍不明だけどすごいカラーリング
ここ金武町にはアメリカ海兵隊の基地があり、店があるのもそのすぐ向かい。近くを歩けばアメリカンテイストあふれる建物も多い。それゆえチャーハンをフライライスと名付けているのだろうか。

ともかく400円という価格にしては量も味もすごいパフォーマンスだったフライライス。こういう町ではチャーハンと言うより、フライライスと呼んだ方が気分が出る。
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緩急自在のメニューで迫るパーラー

最後に紹介するのは、名護市にある「パーラーわかば」。再び風通しがよいタイプのパーラーだ。
パーラー慣れしてきてそれっぽさが嬉しい
パーラー慣れしてきてそれっぽさが嬉しい
海の家風なのにクリスマスの飾りもある
海の家風なのにクリスマスの飾りもある
店頭にはガチャガチャも置いてあって、食堂としての機能だけでなく、近所の子供が集まる場としての存在感もあるようだ。実際、さまざまな食堂系メニューが並ぶ下には、20円くらいで買える駄菓子も置いてあった。
定番の他に気になるメニューも
定番の他に気になるメニューも
定食類はほぼ450円という価格
定食類はほぼ450円という価格
たくさんあるメニューで気になるのは「平ヤーチ」だろうか。お店の方の話によると、沖縄のお好み焼のような食べ物とのこと。こちらでは一般的な軽食のようだ。

そして「学生風ラーメン」。このメニューはときどき見かけることがあって、具のない「素ラーメン」であることが多いが、こちらのお店では野菜炒めが乗っているという話でやや異色。おにぎりまでついて400円とは学生が喜びそうな値段だ。

定食類はその多くが450円。とんかつもハンバーグも焼肉もその価格なのがすごい。

そんな中で異彩を放つのが「みそ汁定食」。こちらも450円なのでとんかつやハンバーグと同じなのだが、一体どんなものだろうか。
納得、というか安く感じる450円
納得、というか安く感じる450円
やってきたみそ汁定食はこうしたたたずまい。大きな丼に、一般的なみそ汁とは一線を画すものがこんもりと盛られている。
これが沖縄では普通
これが沖縄では普通
ランチョンミートや卵も入ってる
ランチョンミートや卵も入ってる
沖縄でみそ汁というと、こうした具だくさんのものが一般的であるらしい。葉物野菜はレタスで、これもみそ汁にはよく使われる食材とのこと。

野菜だけでなく、地元ではポークと呼ばれるランチョンミートは卵も入っていて、おかず感も十分にある。やや甘めの味噌と溶け合う味わいでおいしい。
次々とメニューを解説してくれるおかみさん
次々とメニューを解説してくれるおかみさん
他にも気になるメニューがあるこの店。壁に貼ってあるのを見ていると、おかみさんがいろいろと詳しく教えてくれる。話しぶりから、どのメニューも食べてもらいたいという気持ちが伝わってくる。
右上部分がどうしても気になる
右上部分がどうしても気になる
「中味イリチャー」は豚の内臓の炒め物。「みじゅん」はイワシ類の魚。そういう字面ではわからない地元言葉の食べ物の中に、意味はわかるけどなんかおかしいメニューが1つある。カエルだ。

おかみさんに「カエルって、カエルですか?」と訊くと、「カエルだねえ」とのこと。
これはカエルだ
これはカエルだ
やってきたものも、どうしようもなくカエル。「沖縄の人ってカエルをよく食べるんですか?」と訊くと「そうでもないねえ」とのこと。

ならば「じゃあこれ、沖縄のカエルなんですか?」と質問すると「違うねえ」とのこと。なんなんだ。
もう物語性は求めない
もう物語性は求めない
ただ純粋にカエルを食べる
ただ純粋にカエルを食べる
「まあ話のタネになるかと思って」とおかみさん。そうだ、それはなる。実際こうして書かせてもらってる。

よく鶏肉と似ていると言われるのを聞くカエルだが、自分としてはそうでもなく、「これがカエルか…」とフラットな気持ちで食べる。マイナス要素は特に感じない味だが、個人的にはこれはうまいと思うものでもなかった。

ただ、メニューの中に唐突にあるカエルを食べるのは楽しい。そういうことでいいんだと思う。

最後のお店、コーヒーまで出してくれた
最後のお店、コーヒーまで出してくれた
沖縄のパーラーで見つけた、ミステリアスなメニューたち。いわゆる郷土料理ではなくても、店のたたずまいも含めてその土地の雰囲気と一緒に味わえる食べ物だった。

ネットの辞書によると、パーラーとは古いフランス語で「話をする所」という意味との説明もあった。確かにそういうムードがどの店にも漂っていた気がする。
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