特集 2012年12月11日

新幹線の分岐で興奮する

この上を新幹線が二手に分かれる
この上を新幹線が二手に分かれる
東北に向かう新幹線は大宮の先で新潟・長野行きと青森行きに分かれる。高崎の先でこんどは新潟と長野行きに分かれる。

分かれるところはどうなっているのだろう。

あの新幹線の高い高架が分岐するのだ。遙か頭上でコンクリート製の橋梁が分かれて、銀河鉄道999のターミナル駅みたいな光景が広がっているのではないか(そういうコマを見たことがある)。

これはいちど見に行っておかねばなるまいて。
1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

前の記事:「布団はまだ暖かい、遠くまで行ってない」の距離を考える

> 個人サイト webやぎの目

グーグルマップでも興奮する

分岐するところをグーグルマップで見ただけでも興奮する。200キロ以上で走ってきた新幹線が、すぱーんとそこで振り分けられるのだ。

大きな地図で見る
大宮の先、右が東北新幹線、左が上越・長野新幹線

大きな地図で見る
高崎の先、右が上越新幹線、左が長野新幹線
高速の仲違いである。あっというまに遠く離れてしまうだろう。

などと妄想を説明したところで分りにくい趣味である。記事にしたところであまり共感を得られない。こっそりとひとりで見に行こうかと思っていたのだが…。

地味な企画に5人で参加

5人で行くことになったのだ(撮影は通りすがりの知らない人。お願いして撮影してもらった)
5人で行くことになったのだ(撮影は通りすがりの知らない人。お願いして撮影してもらった)
デイリーポータルZからは僕と編集部の古賀。そして秋田書店から編集の駒林さんと滝川さん。そして漫画家のカラスヤサトシさんである。

あの人気漫画家のカラスヤサトシさんだ。僕もファンである。なぜそのカラスヤさんがここにいるのか。

秋田書店の新刊まんが雑誌「もっと!」とデイリーポータルZでいっしょに取材しましょう、という話をすすめていたのだ。

近々予定している企画を秋田書店に送ったところ、でかい魚を釣るとか派手な企画が選ばれるだろうと思っていたら、まさか新幹線の分岐を見るというウルトラ地味なものが選ばれたのだ。
そしてカラスヤさんはまんがと違う
そしてカラスヤさんはまんがと違う

好きな漫画家を困らせる

まずは大宮の分岐に向かう。京浜東北線のなか、分岐の部分をグーグルマップでカラスヤさんに見せて説明する。説明すると言っても線路が見えるだけで「たまんないっすよねー」と言うだけである。

カラスヤさんはこれまで似たような取材に行ったこともあると話してくれたが、そのようすに2割ぐらい戸惑いと気遣いを感じた(正直いうと5割ぐらい)。

ファンである漫画家をいまおれは困らせている。最悪の出会いである。ラブコメなら恋に落ちるパターンだがおっさん同士だ。
パリ・テキサスのBGMが欲しいところ
パリ・テキサスのBGMが欲しいところ

みどころ1 ニューシャトル

大宮の分岐に行くためには大宮からニューシャトルという乗り物に乗る。東北・上越新幹線に乗ると新幹線の脇を箱みたいな乗り物が走っているのが見える。あれだ。

あれだ、で通じるほど多くの人があれに注目しているのかどうか不明だが、僕はずっとあれに乗りたかった。成田空港の出発ターミナルに向かう四角い鉄道ぐらい乗りたかった。
これがニューシャトル!
これがニューシャトル!
参考)成田空港の小さい鉄道
参考)成田空港の小さい鉄道
「ニュー」とつくものに新しいものはない、とはデイリーポータルZライターの田村さんの発言だが(ニュー新橋ビルしかりニュータウンしかり)、ニューシャトルもそれにたがわぬひなびた味わいであった。新幹線が華やかな温泉ならこっちは鉱泉である。
JR大宮駅は駅ナカなどあって華やかだが、ここだけ急に昭和になる
JR大宮駅は駅ナカなどあって華やかだが、ここだけ急に昭和になる
見たことない色の自動改札がパラレルワールドのようだ
見たことない色の自動改札がパラレルワールドのようだ
むかしのテレビの「しばらくお待ちください」なみに恐いポスター
むかしのテレビの「しばらくお待ちください」なみに恐いポスター
僕以外にそこまで熱心な人もいない
僕以外にそこまで熱心な人もいない
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分岐が予想以上に派手だ

ニューシャトルを丸山という駅で降りて少し歩くと分岐がきれいに見える場所があった。
東京を出た新幹線がここで左右に分かれる(右が上越・長野新幹線、左が東北新幹線)
東京を出た新幹線がここで左右に分かれる(右が上越・長野新幹線、左が東北新幹線)
眺めていると新幹線がしゅるんしゅるんと音を立てて左右に振り分けられて行く。上りの新幹線は背後からやってきてしゅるしゅる合流して行く。川の中州にいるようだ。

思った以上に派手でおもしろい。この趣味、いけるぞ。
気づけばカラスヤさんもかぶりつきである
気づけばカラスヤさんもかぶりつきである
もっと分岐に近づいてカラスヤさんのハートをわしづかみにしたい。

しかし直後にふたりのハートをわしづかみにしたのは、
おちてたアダルトDVDであった
おちてたアダルトDVDであった

見どころ2 分岐の下が沼

舗装もしてない道を進んで分岐の真下まで来た。この上で新幹線がわかれる。

ここまで一緒に歩んできて、はじめて隙間ができる。この隙間はやがて青森と新潟まで350キロもの差になる。その始まりである。
新幹線が分かれる場所を真下から見た景色
新幹線が分かれる場所を真下から見た景色
しゅごしゅごと新幹線が上を通り過ぎて行く。ここの面白いところは、
下が沼なのだ
下が沼なのだ
新幹線に乗っている人もまさか自分たちが沼の上を200キロ以上で走っているとは思わないだろう。カエルやザリガニがいそうな沼である。

北に向かう新幹線に乗ったら大宮あたりでその下にいるカエルやザリガニのことを考てほしい(カエル目線)。
巨大分岐を堪能
巨大分岐を堪能
JR用地のため立ち入り禁止だけではなく「釣りをしてはいけません」。
JR用地のため立ち入り禁止だけではなく「釣りをしてはいけません」。

見どころ3 草ボウボウ

この分岐のおもしろさは新幹線+沼という意外な組み合わせだけではなく、草ボウボウマニア(僕のことです)を唸らせる植物の茂り具合もまた味わい深い。

駐車禁止の標識なんて猿の惑星みたいになっていた。
これが駐車禁止の標識
これが駐車禁止の標識
よく見ると駐車禁止が隠れている
よく見ると駐車禁止が隠れている
「カラスヤさん! これすごいですよ!」
「カラスヤさん! これすごいですよ!」
カラスヤさんは「こ、ここが大宮だったんや!」と猿の惑星ごっこをしていた。うれしい。
どこまでも続く草ぼうぼう
どこまでも続く草ぼうぼう
インド料理屋でこういう葉っぱのうえに料理が出てきた
インド料理屋でこういう葉っぱのうえに料理が出てきた
次に高崎の分岐に向かう。移動する新幹線からついさっき下から眺めた分岐を堪能する。
分岐を下から上からと楽しむ
分岐を下から上からと楽しむ
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スタンドバイミー 高崎編

次の分岐は高崎からバスで30分ほどの場所にある。ひとつめでいきなり沼なんて大物が来てしまったのであれ以上の分岐はないかもしれない(「沼なんて大物」という言葉、もう一生使わないだろう)。
実家のような路地を歩き(いい分岐がありそうな雰囲気)
実家のような路地を歩き(いい分岐がありそうな雰囲気)
いい分岐出た。右が長野に向かう新幹線、左が新潟に向かう新幹線。
いい分岐出た。右が長野に向かう新幹線、左が新潟に向かう新幹線。
大宮に比べて高架が曲線的で女性的だ。通過する新幹線の数が少なく、あたりがしーんとしているのもまた神々しい。

もっと分岐に近づけそうである。沼じゃないので真下から見ることも可能かもしれない。

そして…
「お!」「あれは!」色めき立つ一行
「お!」「あれは!」色めき立つ一行
デイリーヤマザキの上が
デイリーヤマザキの上が
分岐!(「ブ・ン・キ!」と読んでください)
分岐!(「ブ・ン・キ!」と読んでください)
ちょっとスタンドバイミーみたいである(この時点で時点で古賀が帰宅しているため、取材チームは男4人)。いや、ちょっとじゃなくてスタンドバイミーそのものだ。

興奮が一線を越える

デイリーヤマザキを越えれば分岐を真下から眺められそうだ。行ってみよう。
いてもたってもいられず分岐の真下に走る駒林さんと追うカラスヤさん。ホラー映画だとまっさきに喰われるタイプ。
いてもたってもいられず分岐の真下に走る駒林さんと追うカラスヤさん。ホラー映画だとまっさきに喰われるタイプ。
そしてここが分岐そのもの。大宮よりも分岐する一点がわかりやすい
そしてここが分岐そのもの。大宮よりも分岐する一点がわかりやすい
真下から見たところ
真下から見たところ
サービスショット。分岐のはじまりは角張っているのだ
サービスショット。分岐のはじまりは角張っているのだ
分岐のはじまりのところは前日の雨が残っていたのか、水が垂れていた。このとき4人で
「これエロすぎないですか」
「写真載せていいのかな」
と共感ゼロのことを話し合った(僕らは共感100%で)。スタンドバイミーが一気に中2の夏休みになった。

分岐ってなんかいいんですよねーとアンニュイに言ってきたが、もしかしたら性的なものを感じていたのかもしれない。と思ったら恥ずかしくなった。
でも全員記念写真を撮るぐらいテンション上がってたからいい(撮影・通りすがりのおじさん)
でも全員記念写真を撮るぐらいテンション上がってたからいい(撮影・通りすがりのおじさん)

趣味は分岐を見ることです

大宮と高崎を制してほぼ新幹線の分岐はおさえたつもりでいたが、東北新幹線と秋田新幹線が分かれるところが盛岡にあった。
ここもおさえて分岐鉄(撮り鉄とか乗り鉄など鉄道趣味の新ジャンル)のパイオニアになっておきたい。
ひとりだけのパイオニアになる可能性もあるのが気になるところでは、ある。
帰りに寄った住宅展示場居酒屋で駒林さんとカラスヤさんを撮ったら泥棒みたいになってしまったオフショット(”中に住宅街がある”居酒屋)。
帰りに寄った住宅展示場居酒屋で駒林さんとカラスヤさんを撮ったら泥棒みたいになってしまったオフショット(”中に住宅街がある”居酒屋)。
秋田書店から12/17に発売される「もっと!」にカラスヤサトシさんがこの旅を描いた作品が載ります。二人の視点で立体的に楽しめるぞ(3Dになるわけではないです)

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