特集 2012年12月20日

焼き鳥リングで愛を誓おう

酒池肉林の間違った解釈、ではない。
酒池肉林の間違った解釈、ではない。
忘年会シーズン。今この瞬間も、全国各地で宴会が開かれ、とりあえずはビールと焼き鳥が頼まれ続けているに違いない。
ところでいっぽう、クリスマスも間近である。

そこで、「焼き鳥リング」だ。愛の証に、焼き鳥ング。
1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

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焼き鳥注文における諸問題の一

まあ、とりあえずビールと、焼き鳥盛り合わせでも頼みますか。
今思えばこれで「盛り合わせ」と言い切っているメニューなのである。
今思えばこれで「盛り合わせ」と言い切っているメニューなのである。
食べやすいように外しますねー。
食べやすいように外しますねー。
あっ。
あっ。
皆さんも必ず経験があるだろう。数名で上写真のような焼き鳥をつつくとなると、串から外さなくては皆で食べにくい。だが鶏肉と竹串との親和性は思った以上に高く、箸でしごいてもなかなか取れず、パチンコのように肉を皿の外にすっ飛ばしてしまうことが常態となっているのだ。今この瞬間も、津々浦々でレバがハツがカシラが、ぶんぶんすっ飛んでいる。

この現象についてはまたいつか改めて検証したいと思っているが、それはさておき。

この、「鶏肉と竹串」との関係。比翼の鳥か、連理の枝か。切っても切れない、深き縁を感じないだろうか。恋人たちの愛の証、そのモチーフに使えるのでは、ないでしょうか。

どこかで間違えた気がしないでもないが、愛に迷いなんて要らない。さっそく始めよう。
改めて、惣菜屋で一通り買ってくる。ザ・焼き鳥ともいえる姿のものを。
改めて、惣菜屋で一通り買ってくる。ザ・焼き鳥ともいえる姿のものを。

型鶏、もとい型取りだ!

ごたくをいろいろと並べたが、要は本物の焼き鳥から食品サンプルのようなものを作って指輪にする、という企画である。よって以降は、地味に型取り作業が続くと思ってください。

指輪にするわけだが、普通に金属の話に焼き鳥オブジェを乗っけるのでなく、せっかくなので自分の指を串に見立てたい。となると、自分の指の太さ以上の大きさの焼き鳥が必要なのだが、居酒屋メニューにあるようなジャンボ焼き鳥が近所には売ってなかった。

焼き鳥ショーケースの前でしばらくにらめっこして、なるべく大きいのを選んで買ってきたのだ。お店の人には「タレか塩かでこんなに悩むものなのか」くらいには思われたかもしれない。
うーん、ザ・微妙な直径。
うーん、ザ・微妙な直径。
まあいいか、と例の切り離し作業。やはりすっ飛ばし行為が生じました。
まあいいか、と例の切り離し作業。やはりすっ飛ばし行為が生じました。
指の幅と比べ、大丈夫そうなのをピックアップ。肉たちも戦々恐々であろう。
指の幅と比べ、大丈夫そうなのをピックアップ。肉たちも戦々恐々であろう。
余分なタレを洗い流してふき取る。
余分なタレを洗い流してふき取る。
これら候補者以外は、翌日の夜に美味しくいただきました。さて候補者らは別室へ。すみませんがシリコーンで型取りさせてもらいます。申し訳ない、と拝みつつ、粘土へ半分ドボン。まずは片面の型を取る。
とにかくここで焼き鳥の匂いがより強まってきたと言っておこう。お伝えできないのが残念だ。
とにかくここで焼き鳥の匂いがより強まってきたと言っておこう。お伝えできないのが残念だ。
しばらく放っておいたので油粘土がガチガチだったが、鶏の脂でなんだかやわらかくなってた。
しばらく放っておいたので油粘土がガチガチだったが、鶏の脂でなんだかやわらかくなってた。
シリコーンを流し込み。ここでやっと焼き鳥の匂いとしばらくおさらばだ、6時間くらい。
シリコーンを流し込み。ここでやっと焼き鳥の匂いとしばらくおさらばだ、6時間くらい。
自室がすっかり鶏くさくなってしまったが、ここでしばらく待機。翌朝、もう一方の面を型取りしよう。
型をひっくり返す。まだおったわー。
型をひっくり返す。まだおったわー。
油粘土を全部引き剥がし、次に流し込むシリコーンがくっついてしまわないよう、固まったシリコーンにワセリンを塗る。
油粘土を全部引き剥がし、次に流し込むシリコーンがくっついてしまわないよう、固まったシリコーンにワセリンを塗る。
買ったワセリンには「@cosmeベストコスメ大賞殿堂入り」とかいうラベルが貼られていた。おかまいなし。うちではベスト離型剤大賞殿堂入りである。

で、また6時間ほど軽く待つわけだ。そして原稿が遅れる、というワケ(すみません)。
ずっしり固まった両面型から、型取りブロックを取り外す一瞬、この楽しみのために生きている・・・!
ずっしり固まった両面型から、型取りブロックを取り外す一瞬、この楽しみのために生きている・・・!
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またくだらぬ型を作ってしまった・・・

パカッと開けば、ああ蘇る焼き鳥の匂い。だがしっかりと型は取れたようだ。
知育玩具のようである。「焼き鳥パーフェクション」だ。
知育玩具のようである。「焼き鳥パーフェクション」だ。
肉が残らないよう丁寧に洗う。
肉が残らないよう丁寧に洗う。
この型にレジンキャストという樹脂を流して焼き鳥のクローンを作るが、このままでは樹脂を流す通路が無い。カッターで、樹脂の通路と空気穴を開ける。空気が抜けず気泡がたまりやすい箇所はどこか?など考えつつ、道を切り開く。
この作業もまたパズル的でちょっと楽しい。
この作業もまたパズル的でちょっと楽しい。
酒船石か。1個の注ぎ口で済ますと樹脂が行き渡るか心配だったので、3箇所に分けることにした。
酒船石か。1個の注ぎ口で済ますと樹脂が行き渡るか心配だったので、3箇所に分けることにした。
樹脂がスムーズに流れるよう、タルク粉(ここではベビーパウダー)をまぶす。焼き鳥とパウダーの香りが混じって…
樹脂がスムーズに流れるよう、タルク粉(ここではベビーパウダー)をまぶす。焼き鳥とパウダーの香りが混じって…
型の準備は整った。2面をぴったり合わせて縛っておき、次に樹脂の調合だ。
A液とB液を半々ずつ。こぼしたら大変だ!想像するだけでも大変だ!!
A液とB液を半々ずつ。こぼしたら大変だ!想像するだけでも大変だ!!
余談だが、調合した樹脂液をうっかり飲んでしまった人がいるという。そのとき飲んでたカップのコーヒーか何かと間違えて。ぐいっと。もちろん即救急車、そして胃洗浄したそうであるが、おお、恐ろしい。放っておいたら胃のフィギュアができたかもしれない、なんて冗談はさておき、飲み物と一緒に置かないよう、気をつけましょう。
焼き鳥の地の色に近くなるかな、と茶色の色素を入れた。
焼き鳥の地の色に近くなるかな、と茶色の色素を入れた。
よーく攪拌して、すぐに流し込む。
よーく攪拌して、すぐに流し込む。
シリコーンはゆっくり固まるが、これは数分の勝負だ。さあ、コーヒーでも飲んで硬化を待とう。
左上、つくねの分が足らなかったがまあ流し込みはだいたい成功。でも色が…
左上、つくねの分が足らなかったがまあ流し込みはだいたい成功。でも色が…
チョコレートか?という色に。レバーには使えそうだが、ネギマなどは色を考えねばなるまい。
剥がしたら、脂肪の一部がまだ型に埋まっていたらしく、一緒に取れた…ゾワーッと、文字通りトリハダが立った。
剥がしたら、脂肪の一部がまだ型に埋まっていたらしく、一緒に取れた…ゾワーッと、文字通りトリハダが立った。
次はこんな感じに、難なく成功。
次はこんな感じに、難なく成功。
難なく成功!とか書いているが、どこまで行っても焼き鳥である。またくだらぬ型が増えてしまった、と五右衛門ばりにぼやきたいところである。「型ルシス」、いや何でもない。

次は指の穴開け。ここで新兵器の投入である。
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やっと指輪らしい工程に

指輪をはめる薬指はだいたい直径1.7cm。それだけの穴を開けるのに、スパイラルステップドリルというアタッチメントをハンディドライバーに取り付けた。横文字だらけ。

さて、どうよこの存在感。ちょっとずれて指切っちゃった・・・のパターンをこのヘッドでと想像すると、軽くめまいがしてくる。
なんともはやゲッターロボっぽい。
なんともはやゲッターロボっぽい。
その前に、普通の細いドリルで穴を開けておく。
その前に、普通の細いドリルで穴を開けておく。
そして本番、チェンジ!!…も、持ってかれるぅ~!
そして本番、チェンジ!!…も、持ってかれるぅ~!
取り乱してしまい申し訳ない。ペンチでがっちり支え、だんだんと穴を広げていくのだが、たまにぐいっと彫りが進むととたんに引きずられてしまって、なかなかに危ない。大変なことになった。これいくつ穴開けんの。眠い。疲れた。腹減った。逃げたい。

しかし慣れとはすごいもので、いくつか開けるうちにもう長年この作業に従事しているかのような気持ちになった。まあ、気持ちだけね。
スパイラルなので、深い穴だとこうなる。開口部がもう十分な径なので、これ以上進めない。
スパイラルなので、深い穴だとこうなる。開口部がもう十分な径なので、これ以上進めない。
よってここからは手作業で。眠い。疲れた。腹減った。
よってここからは手作業で。眠い。疲れた。腹減った。
幅の広いものばかりなので、多少余裕を持って穴を開けないと、某国でよく見られるような「はまって抜けなくなる危険」が生じる。かといってゆるゆるでも、当初の「焼き鳥と串のように離れ難くなる指輪」というコンセプトとはズレてしまうわけだが、抜けない恐怖だけは避けたい。

なんとか完全に穴を開けることができたので、ちょっと試しにはめてみよう。
色塗らないと何がなんだか。塗っても何がなんだか、だとヤだな…。
色塗らないと何がなんだか。塗っても何がなんだか、だとヤだな…。
そうそう、こういうのは色さえ塗ればそれっぽくなるのよ。やあねぇ。
指とか使って、焦げとか脂とかそれっぽい感じにカラーリング。
指とか使って、焦げとか脂とかそれっぽい感じにカラーリング。
クリアラッカーを塗ったところ…こ、これは!
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メリ串!

焼き鳥はめて遊んで親に怒られる直前、というたたずまい。
焼き鳥はめて遊んで親に怒られる直前、というたたずまい。
手前味噌ですがネギマ、レバーがいい感じ。つくねはまあこんな感じか。タレなのに手前味噌とはこれ如何に。
手前味噌ですがネギマ、レバーがいい感じ。つくねはまあこんな感じか。タレなのに手前味噌とはこれ如何に。
ペアで。
ペアで。
指輪というか何というか・・・。その上ひどく邪魔な指輪であるが、まあファッションにはこういう不便さを愛でるパターンもあるだろう。

串だ。指が串になった。メリー串スマス!

ではまた、冒頭の居酒屋に戻って、焼き鳥リング=焼き鳥ングの効能をとくと見てみよう。
「あの、こ、これ…」「まぁ!ありがとう!」「僕達もこんなふうになれるとい――」
「あの、こ、これ…」「まぁ!ありがとう!」「僕達もこんなふうになれるとい――」
カシラ指輪だった。
カシラ指輪だった。
「…」
「…」
「……」
「……」
この店にはなんと指輪のとおりの種類は置いてなかったわけだが。本物と比べても、うん、焼き鳥っぽいです。
この店にはなんと指輪のとおりの種類は置いてなかったわけだが。本物と比べても、うん、焼き鳥っぽいです。
もうすっごい焼き鳥好きで好きでしょうがない人、にしか見えなくなった。比翼連理の愛より今はビール。
もうすっごい焼き鳥好きで好きでしょうがない人、にしか見えなくなった。比翼連理の愛より今はビール。

焼き鳥と串のようにいつまでも離れない―という趣旨で作った焼き鳥リング。よく考えたらどうせ食べちゃうのであんまり意味なかったかもしれないが、作るのは面白かったのでよしとしよう。あと口実にビール飲めたのでこれもまたよし。きよしこの夜。

【告知】

1月1日~6日まで東急ハンズ池袋店にて、異色の消しゴムはんこ作家たちによる、はんこ押し放題イベントが開催されます。乙幡も参加。新作もあるかも。いや、ある。

5日・6日は現場に立ちますので、あけおめとか言い合いましょう!

詳しくは東急ハンズ池袋店まで!
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