特集 2015年7月13日

ポスティングされたチラシは掛け軸にする

ポスティングされたチラシの中からの気に入りの1枚を床の間にかけようというご提案
ポスティングされたチラシの中からの気に入りの1枚を床の間にかけようというご提案
我が家ではチラシは基本的にざっと目を通したあとすぐ捨てることがほとんどだ。てんやもののメニューをたまにとっておいたりはするが、基本的にはゴミである。

せっかく企画されデザインされてそのほかなんやかんやきっといろいろあるんだろうようやく印刷までこぎつけたかと思うや否や梱包され各地へと配送され、さらにとことこ歩いて(チラシのポスティングの人はおおむね歩いている)ポストまで流れ着いても住人の目にふれた1秒後にはゴミ。

考えたら切ない。
東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

前の記事:汁の色見て醤油を入れる ~今日から使える目分量レシピ~

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1ヶ月間の投函分からベスト1を飾る

そうして急激な切なさにおそわれた私は1ヶ月間チラシをとりためておき一番の気に入りを掛け軸にしたのだ。
お床にかけ心していわゆる茶道でいうところの「拝見」を
お床にかけ心していわゆる茶道でいうところの「拝見」を
私が選んだチラシベスト1は近隣の工事のおしらせ
私が選んだチラシベスト1は近隣の工事のおしらせ

チラシ道

たよりない1枚の紙っぺら。だが掛け軸にしてお床にかざることで異常なありがたみが付与された。これならばひげをなぜなぜ「ほほう…」と眺めるに値するだろう。

しかし「ほほう…」と無いひげをなぜながら、なにやってんだこれという素直な思いも残るのは事実だった。

じっと見ると「道路工事のお知らせ」とある。ああそうだ。近所に更地になったところがあって、そこのガスまわりをいったん全部撤去して新しくするらしいのよ。この辺の土地はね、みんなもう築年数がすごいから更地にして新築ってなるとガスから水道からだいたい全取替えになっちゃうみたいなのよね。とはす向かいの家の奥さんが教えてくれたのを思い出す。
「道路工事のお知らせ」
「道路工事のお知らせ」
このお知らせで知らされた工事当日は平日だったがいろいろあって私は家にいた。工事の余波で我が家は大変に揺れた。その揺れで酔うほどであった。

お床の前に手をつきその酔いを思い出していた。そうだ、そもそも私は酔いやすいのだ。それで幼少時はずいぶん苦労したし、大人になってもバスで本でも読めば平気で酔う。

……。

1枚のチラシから急に体質への思いがあふれ出してしまった。

床の間を前にしたこの内面との対峙。華道、茶道、香道的な○○道的といってしまってもいいのではないか。チラシ道? 字面だけマンガ道っぽくなった。

天丼はすばらしい

こちらはライターさくらいみかさんのベスト1、天どんチェーンのデリバリーチラシ
こちらはライターさくらいみかさんのベスト1、天どんチェーンのデリバリーチラシ
チラシを介してのまさかの内面との対峙を繰り広げながら、軸を今度はライターさくらいさんが1ヶ月間ためた中から選んでくれたチラシベスト1であるどんぶりもののデリバリーチェーンのチラシのものに変えてみた。

日常の刹那、ポスティングチラシに思いを寄せたいという気持ちにさくらいさんも共感して参加してくれたのだ。
天丼だ
天丼だ
おいしそうだな
おいしそうだな
デリバリーのチラシなのだがら最大級に食べ物の魅力を訴求してくるのは当たり前である。

天丼のすばらしさがダイレクトに刺さる。

さくらいさんはいろいろとポスティングされたチラシから「食べ物が大きく載っているものを選びました」とのこと。

そうか、それくらいの素直さでよかったのか。

注文しないにもかかわらずデリバリーのチラシを眺めるのが好きだという人は多いのではないか。そういう人たちの気持ちが一つになって元気玉ではなく掛け軸ができたというストーリーもまた美しいかもしれない。
掛け軸、寿司もよさそう
掛け軸、寿司もよさそう
うなぎもいいな
うなぎもいいな
このポエム感、これも掛け軸にすべきだったか
このポエム感、これも掛け軸にすべきだったか

吊り下げないだろう、だが掛け軸に

そっと障子をあけた先にあるのは
そっと障子をあけた先にあるのは
リフォーム工事のお仕事いちらん
リフォーム工事のお仕事いちらん
こちらは編集部安藤の選ぶベスト1。

このチラシ、ちょっと変っている(?)のだ。
このように、ひもがついていてぶら下げてとっておけるようになっている。昔のそば屋の出前メニューみたい!
このように、ひもがついていてぶら下げてとっておけるようになっている。昔のそば屋の出前メニューみたい!
これを見て失礼ながら、吊り下げてまでとってはおかないだろうなあ、吊り下げてとっておく人ってどれくらいいるんだろう…などと思ってしまった。が、今日は吊り下げるどころか一足飛びに掛け軸にする。

選ばれし1枚の大出世である。

工事のお知らせに酔い、天丼の魅力に納得し…と、チラシの側に翻弄されているような気になっていたが、もしかしたら私の方がチラシの人生を翻弄しているのではないか。
まさか掛け軸にされるとは…チラシの運命が数奇だ
まさか掛け軸にされるとは…チラシの運命が数奇だ

掛け軸にしたらがい骨がいきいきした

続いては編集部 藤原の選ぶベスト1チラシ(続々登場しますが、あと編集部の橋田あわせて全部で5人が参加しました)。
奥の板間から洋椅子に座って眺める
奥の板間から洋椅子に座って眺める
ボウリングでストライクを取ったあとの振り向きざまのようなドクロ
ボウリングでストライクを取ったあとの振り向きざまのようなドクロ
どうだろう、こんなにはしゃいだドクロもなかなかいないのではないか。

単なるチラシのときはそう感じなかったのが、掛け軸にしたらとたんに飛び出してきそうになったように思う。

おそらくは「一休さん」のイメージだろう。ねじり鉢巻にたすきがけでさあと虎の屏風にいどむエピソードがあるじゃないか。あれだ。

このドクロだったら一休さんの手を煩わせずに勝手に飛び出してきそうだ。飛び出してこないでいいからなとなだめたい。

家系図の掛け軸的な

そして最後は編集部 橋田セレクト。
ここまでで一番ぱっと見に違和感がない。みつをの詩だといわれれば信じる
ここまでで一番ぱっと見に違和感がない。みつをの詩だといわれれば信じる
かけてあるのは、これ
かけてあるのは、これ
不用品回収の無料回収品目一覧である。

これを橋田が推してきたときに確かにこれはいいものだと思わされた。整然と並ぶ家電名。一覧はいい。

由緒ある家には家系図の掛け軸があると聞く。古来からデータは掛け軸と相性がいいのだ。
遠いので目を凝らすのもおつである
遠いので目を凝らすのもおつである

改めて、チラシは掛け軸にする

気に入ったチラシは掛け軸にする。やってみると日常のノイズともいえるあまりにも身近な存在のポスティングチラシが急によそよそしくなってしまい緊張した。チラシに対して緊張するということはこれまでなかったことだ。

チラシという日常すぎる日常が掛け軸化によって確かに豪快に強引に日常から千切り離されたということだろう。

さてこの掛け軸、ごらんいただいてバレているかもしれないが手ぬぐいを使って簡単に作った。
全部100均の手(本当は無地がよかったのだが最近の手ぬぐいは安いのも高いのもやけに柄がらしかった)
全部100均の手(本当は無地がよかったのだが最近の手ぬぐいは安いのも高いのもやけに柄がらしかった)
以前企画でおせわになった書家の関尚子さんにうかがったところ本格的な掛け軸を作るには大変な技術が必要だそうだ。

そこを最大限簡易化したのが手ぬぐいだった。絵柄の入った手ぬぐいの上下に丸棒を取り付けて掛け軸のようにするインテリアがあるので、それにチラシを貼った色紙を取り付けるアイディアをいただいき事なきを得たのだった。
さらに我が家には床の間がないので撮影は和室のハウススタジオで。妙な本気度の高さである
さらに我が家には床の間がないので撮影は和室のハウススタジオで。妙な本気度の高さである
静かでした
静かでした

チラシを1か月分ためるということ

さて、冒頭にロゴが入っているとおりこの記事は広告記事なのであった。どうだ驚きだろう。私が一番驚いている。

今回の試み、チラシを掛け軸にすることはもちろんだがその前段階、チラシを捨てずに取り置くことがまず一大事だったのだ。
だって1ヶ月でこれ以上来るんですよ
だって1ヶ月でこれ以上来るんですよ
収拾つかない
収拾つかない

私たちはチラシを「子ども」とした

この大量のチラシをさばくのに使ったアプリが今回コラボした「おたよりBOX」なのだ。ざっくりいうと本来は幼稚園、保育園、小学校などから届く「おたより」を父母が効率よく整理して管理するためのアプリである。

きょうだいが何人かいても、個別におたよりを仕分けられるようになっている。
そこで、子どもの名前をチラシのジャンル分けに使った
そこで、子どもの名前をチラシのジャンル分けに使った
子どもをチラシのジャンルということにしてポスティングされたチラシを仕分けたわけだ。

「子どもの設定」画面で次々と子どもを増やすという(しかも名前は「不動産」とか「てんやもの」)、アプリの設定でこんな背徳感を感じることもなかろうという作業であった。

参加者は各々、その時点のベスト1チラシをクリップしておき(そういう機能がある、本来は年間通じて使う連絡網などを指定するらしい)そうして決められた最高の1枚が、まさか掛け軸になったという次第である。
接骨院のドクロ、よく見たら「ナンバー1!」みたいな手つきしてた。心地よいイラっ
接骨院のドクロ、よく見たら「ナンバー1!」みたいな手つきしてた。心地よいイラっ

ポスティングチラシについてわかった3つのこと

次ページではせっかくなのでこの1ヶ月間メンバーがチラシを集めて分かったことをまとめてみたい。

おおむね
・チラシは来る家と来ない家の差がすごい
・ジャンルわけが異常にむつかしい
・不動産は新築マンションでなくてもポエムである

ということが分かった。

掛け軸でやりたいことはやったので、せめて少しでも情報をお伝えしようというあとから出てくる免罪符です。

いったん広告です

ポスティングされがちな家、されない家

今回チラシ集めに参加したのは6人。東京在住1人、神奈川在住2人、埼玉在住1人、島根在住1人。

1ヶ月であわせて189枚のチラシが集まった。1人平均して32枚弱のチラシが投函された計算だが、これにはかなりばらつきがあった。

一番多かったのは東京在住の私で68枚。一方少なかったのは神奈川在住の橋田で11枚。月間で57枚もの差があった。

橋田家と古賀家では電車で1時間くらいの距離しか離れていないのだがこんなに差があるものなのか。

感触としては戸建てに住むほうがマンションやアパート住まいよりも多くチラシが投函されるようだった。
古賀家68枚、藤原家54枚、安藤家42枚は丸テーブルにチラシが乗り切らなかった
古賀家68枚、藤原家54枚、安藤家42枚は丸テーブルにチラシが乗り切らなかった
いっぽう橋田家はこれくらい。ぜんぜん違う!
いっぽう橋田家はこれくらい。ぜんぜん違う!

ポストの中は意外に宇宙

意外だったのはチラシのジャンルだ。

だいたい普段自宅に入ってくるチラシといえば不動産関係、てんやもののメニュー、あとは住宅のメンテナンス(水道工事、引越し、不用品処理)や習い事関係(フィットネスとかスイミングスクールとか)かなあと思っていたのだが、いざ来い! とチラシを待ち構えてみると「ああそういえばこういうの来るわ~」というジャンルわけの難しいチラシが続々と入ってきていた。
不動産関連が多いものの、分け切れなかった「その他」が19%までに膨れ上がった
不動産関連が多いものの、分け切れなかった「その他」が19%までに膨れ上がった
ざっくりジャンルわけして「おたよりBOX」で子供の名前をつけて割り振っていたが、「そのほか」が躍進してしまいダメな調べ物の感じが加速してしまった。

そのほか、どんなのかというと、こんな感じだ。
なんのキャラだと思ったら、耳ツボダイエットのキャラ…! どうジャンルわけすりゃいいんだ
なんのキャラだと思ったら、耳ツボダイエットのキャラ…! どうジャンルわけすりゃいいんだ
歯のホワイトニング!
歯のホワイトニング! そうきたか…
あー…そうかそうか
あー…そうかそうか
そうだ、これはよく入ってくるなあ
そうだ、これはよく入ってくるなあ
新店オープンもそういえば入ってくる入ってくる。大型コインランドリー開店いいなあ(藤原家より)
新店オープンもそういえば入ってくる入ってくる。大型コインランドリー開店いいなあ(藤原家より)
買取はそれでひとジャンル作ったほうがよかったのではというくらいきた
買取はそれでひとジャンル作ったほうがよかったのではというくらいきた
そのほかに、新聞、郵便局の求人、普通の求人、エステ、マッサージ、区の商店街の商品券発売のお知らせなどくくれどもくくれどもジャンル外が出てくるありさまであった。

ポストの中って思った以上に宇宙だったのだ。
無事に「小売」に分類はしたのだが、「倉庫開放」というのが魅力的だったので載せます
無事に「小売」に分類はしたのだが、「倉庫開放」というのが魅力的だったので載せます

不動産はマンションにかかわらずポエム

そんななかで一つほほうと思ったのは不動産。

当サイトでライター大山さんが詳しく調査し続けている「マンションポエム」が楽しめる新築マンション案内はもちろん、売却物件の募集から中古物件案内まで入ってくるなど枚数の多さは他ジャンルをよせつけない勢いであった。
静域
静域
そういったなかで、こんなチラシが。
チラシにしては細かい字がびっちり書いてある
チラシにしては細かい字がびっちり書いてある
読んでみると、これもまたある意味ポエムなのだ。

一つは朗々と不動産売却にあたるの自社の誠実さが述べられている長文。もう一つは住宅の親子間売却についてのエピソード(ときに台本のようなセリフ形式のくだりもある)がまとまったエッセイ的な文章。

これが妙にしっとりした口調で語られている。

どうしてもストーリーで盛り上げる、そういう業界なのだろうか。
不動産のチラシはときにお手紙形式でも来た(この中に丁寧におりたたまれたチラシが入っている)
不動産のチラシはときにお手紙形式でも来た(この中に丁寧におりたたまれたチラシが入っている)
チラシではなく、お手紙っぽくしているところもまたポエミーである。

ちなみに投函曜日は

気に入ったチラシを掛け軸にするというテーマからいよいよはずれてきたのでもう1歩遠出してチラシの投函曜日もグラフにしてみた(このデータのみ都合で安藤家のチラシは入っていません)。
!
ぼんやりとだが、月曜日と木曜日あたりに山があるっぽい。今すぐチラシが欲しいという人は本記事公開日の月曜日はねらい目である。
ぜんぜん関係ないのですが、信託銀行のチラシに冷えぴたがついてきた
ぜんぜん関係ないのですが、信託銀行のチラシに冷えぴたがついてきた
そしてピザのチラシは全員の力を集めてもピザハットとサルバトーレクオモが入ってこず個人的には心残りである(「ナポリの釜」は初めて見た。タモリカップ?)
ピザチェーン全部を掛け軸にする、というのもありだったな…

息子としての「不動産」

1ヶ月間チラシをためる。
チラシの傾向を知る。
ベストチラシを掛け軸にする。

異色行動としての掛け軸化は置いておくとして、今回一番これはと思ったのはチラシのジャンルを「子ども」に設定したことだった。「そのほか」まで入れると8人の子どもを持ったことになる。ギリギリ大家族もののテレビの取材が入ってもいいくらいの子沢山だ。やった。

ちなみに私の印象ではやはり一子が不動産というイメージでした(二子がてんやもの)。
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