特集 2012年5月22日

横浜中華街から「アナコンダ狩り」へ!!

食えるアナコンダ。
食えるアナコンダ。
数年前、東京湾には通称「アナコンダ」と呼ばれる怪物がいると漁師さんに聞いた。
しかもそのアナコンダはあの有名な観光&グルメスポットである横浜中華街のそばから出る船に乗れば、僕たち一般人にも簡単に釣れるのだという。
そんなこと聞いたら行かないわけにはいかないだろう。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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本当に中華街の目と鼻の先から

横浜に行ったことがない人でも写真や映像でこの門は見たことがあるかもしれない。
横浜に行ったことがない人でも写真や映像でこの門は見たことがあるかもしれない。
というわけでその筋では有名な横浜の腕利きアナコンダハンターに乗船を申し込んだところ、本当に中華街のすぐそばに集合するよう指示された。
誰もがよく知るこの中華街の門。それは東京湾の秘境へとつながる門でもあったのだ。
アナコンダの巣窟へ向かう船は首都高の高架下に隠されていた。
アナコンダの巣窟へ向かう船は首都高の高架下に隠されていた。
午後6時前。日が落ちる直前にアナコンダを知り尽くした船長が操る釣り船「勇樹丸」に乗り込む。東京湾のアナコンダは夜行性なのだ。
出船直後。ベイブリッジが見えてきた。
出船直後。ベイブリッジが見えてきた。
魚釣り、特に大物や珍しい魚を狙う場合、その舞台はたいてい山奥や断崖絶壁、あるいは岸が見えないほど沖合といった人類の文明の匂いから離れたロケーションとなることが多いのだが今回は違う。
ベイブリッジもショッピングモールも大きな工場もすぐそばである。
工業地帯を横目に見ながら船を走らせること十数分。
工業地帯を横目に見ながら船を走らせること十数分。
辺りが暗くなると同時に船が停まる。
辺りが暗くなると同時に船が停まる。
中華街から15分走るか走らないかのうちに船が停まり、船長から「はい、もう釣りはじめていいよー。」の声。えっ!もう!?
こんな近場で釣れるのか?「アナコンダ」なんて仰々しい異名を誇るやつが?魚なんて雑魚か、よくてスズキくらいしかいないのでは…。
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釣り鈎がデカい

しかし、そんな不安は使用する釣り針とエサのファンキーさを見て消えうせた。
僕の手は結構大きい方であるがその上に置いてもこの存在感。右側は大物を狙って釣る際に使用した。
僕の手は結構大きい方であるがその上に置いてもこの存在感。右側は大物を狙って釣る際に使用した。
船長に勧められた鈎がやたら大きい。強気だ。これを口に入れられるという時点で相手は結構な大物だろう。ちなみに鈎の「カエシ」は潰しておいた方がよい。理由は後述。
エサはヒイカと塩サバ。
エサはヒイカと塩サバ。
食用のイカやサバをエサに使う。贅沢だ。しかもイカに至っては小ぶりとはいえ丸ごと釣り鈎につけるという。つまり獲物はイカを丸呑みにできる相手だということだ。
釣り好きにしてみればこんな豪快な仕掛けを目の前にしてテンションを上げるなと言う方が無理な話だ。
うお!もう掛かった!
うお!もう掛かった!
早速仕掛けを海底まで沈める。すると間もなく竿が大きく曲がった!
驚いて「へはっ、せんちょうでかいっす!」みたいな情けない声が出た。
魚が鈎に掛かった時の感触は「ピクピク」とか「ブルブル」って感じに表現されることが多いのだが、こいつの場合は「ゴゴゴゴリゴリゴゴゴ」 という感じだった。力強すぎ!
これがアナコンダだ!…写真だとあんまり迫力伝わらないな。
これがアナコンダだ!…写真だとあんまり迫力伝わらないな。
同行の友人も開始早々2.5キロの大物をキャッチ。
同行の友人も開始早々2.5キロの大物をキャッチ。
そう。「アナコンダ」の正体は1メートルをゆうに超える常識外れの大アナゴだったのだ。
ん?大したことないように見えるって?
…そうなんだよ。細長い魚って実物の迫力を写真で伝えるのがすごく難しいんだよ…。
じゃあこれならどうだ。
身近な物体と比較することで被写体の大きさを意識させる古典的手法。
身近な物体と比較することで被写体の大きさを意識させる古典的手法。
傘と比べてこの長さと太さ。
まさに怪物。最初にアナコンダと呼んだ人の気持ちもわかる。アナゴの貧弱なイメージからかけ離れすぎている。
ペットボトルより、男の腕より太いなんてすごすぎる。いや、ここはアナゴより細い己の腕を恥じるべきか。
ペットボトルより、男の腕より太いなんてすごすぎる。いや、ここはアナゴより細い己の腕を恥じるべきか。
この魚の本当の名前は「ダイナンアナゴ」。長い間、近い種類の「クロアナゴ」として扱われてきたが、近年の研究でどうやらそれは間違いらしいと判明したそうだ。とはいえ釣り人や漁師さんの多くは未だにクロアナゴと呼んでおり、釣り船の予約をする際にも「クロアナゴお願いします」と言うのが基本だ。
また、釣り上げると「ギュッ、ギュッ」とか「グエッ」と声を上げて鳴くので「ギャーギャー」という名でも呼ばれているそうだ
体も顔も普通のアナゴをそのまんま巨大化させたような姿。のはずなんだけどどこか不気味。
体も顔も普通のアナゴをそのまんま巨大化させたような姿。のはずなんだけどどこか不気味。
改めて見てみるとアナゴの口は意外と大きいのに気付く。目の下まで裂けている。
船長が巨大な釣り鈎を勧めた理由がわかる。実際、あのデカい鈎でも2度飲み込まれた。
そして顎の力が恐ろしく強い!口を開けた姿を写真に収めたかったのだが、ペンチを使ってもこじ開けられなかった。わずかに開いた唇の隙間からは小粒だけれど石のように硬い歯がびっしり並んで生えているのが見える。
こんな奴に噛みつかれたら…!
うっかりカエシのついた釣り鈎を使うと、それを口から外す作業だけで大騒動になる。
うっかりカエシのついた釣り鈎を使うと、それを口から外す作業だけで大騒動になる。
この顎の強さが釣り鈎のカエシを潰す理由だ。釣り上げた後で鈎を外す際に手間取って噛みつかれでもしたら大ごとだし、なかなか口を開けてくれないので鈎をちょっと深く飲み込まれたら外すのにものすごく難儀するのだ。勇樹丸の船長は長靴を食いちぎられたこともあるらしい…。
くわえられていたのが自分の指だったら…。
くわえられていたのが自分の指だったら…。
上の写真はダイナンアナゴがタモ網の中で暴れて捻じ曲げた鈎とステンレスの金具である。
アナゴやウツボの仲間は顎の力が強いだけでなく、体をぐるぐる回転させたり、自分の体に結び目を作って引き絞ることで獲物を噛みちぎるという恐ろしい習性を持っている。
もし油断して手に噛みつかれでもしたら…!
「アナコンダ狩り」はその名に似合ってほんの少し危険な要素も含んだ刺激的な遊びなのだ。
以前、この親指ほどの太さのアナゴ系フィッシュに噛みつかれてバッチリ流血した。腕より太い奴が相手だったら間違いなく手の肉ごっそり持って行かれていたと思う。
以前、この親指ほどの太さのアナゴ系フィッシュに噛みつかれてバッチリ流血した。腕より太い奴が相手だったら間違いなく手の肉ごっそり持って行かれていたと思う。
総重量約20キロ。
総重量約20キロ。
あっというまに二人掛かりで十数匹の巨大アナコンダを捕獲。前にならえで並べたら10メートル以上。壮観。
十分にアナコンダ狩りを楽しんだので、終了時間を前倒しして中華街へと戻った。
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もちろん食べるよ!!

さて、言うまでもないが釣ったアナコンダは食べるために持って帰った。さすがに全部は消費できないので、よく太って美味そうな2匹だけをピックアップして残りは海に帰してやった。
さて、次は台所が秘境と化す。
さて、次は台所が秘境と化す。
とりあえずヌメリを洗い落として、普通のアナゴと同じように捌いてみることにしたのだが、愛用の小出刃がものすごく頼りない。
ドラゴンとかの怪物に剣で挑むTVゲームの主人公ってこんな心境なんだろうか。

まあ予想はしてたけどまな板に全然乗りきらない。大半がはみ出す。さてどうしたものか。
まな板の上の鯉ならぬブルーシートの上のアナコンダ
まな板の上の鯉ならぬブルーシートの上のアナコンダ
急遽ブルーシートをまな板代わりにして台所の床で解体することに。単に捨てるタイミングを逸したと言うだけの理由で押入れの奥にしまわれていたシートがアナコンダに呼び出された。一つイレギュラーが混入するだけで生活はどんどん非日常に傾いていくのだと思い知った。
とりあえず背開き。
とりあえず背開き。
普通のアナゴでも難しいのにこんな大きいのは捌く自信が無かった。しかしいざやってみると何のことはない。基本的な体の構造が同じなら捌き方も一緒だ。むしろ大きい分こちらのほうがずっと簡単に思えるくらいだった。
肉はアナゴらしいきれいな白身。美味しそう!
肉はアナゴらしいきれいな白身。美味しそう!
近所のスーパー全部回って一番立派な蒲焼き買ってきたのに…。
近所のスーパー全部回って一番立派な蒲焼き買ってきたのに…。
市販のアナゴの蒲焼きと比較するとこの差。でも若干肉厚でたくましい点を除けばほぼ同じ形だ。当り前だけど。算数や数学の授業で「相似」の参考画像にできそう。
ちなみに皮の付いている側はこんな感じ。デカいけどやっぱりアナゴだ。
ちなみに皮の付いている側はこんな感じ。デカいけどやっぱりアナゴだ。
中骨は干して揚げてせんべいに…。と思ったけどこの太さじゃ無理。
中骨は干して揚げてせんべいに…。と思ったけどこの太さじゃ無理。
なんか肝がやたら赤くて驚いた。魚の肝ってこんな色だっけ?むしろ牛や豚のレバーに近いような…。
なんか肝がやたら赤くて驚いた。魚の肝ってこんな色だっけ?むしろ牛や豚のレバーに近いような…。
大きな肝も取り出してみたが鮮度が心配だったのと色合いがキモかったので試食はしなかった。肝だけにね。

肝だけにね。
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メニューは当然アレ

さて、肝心の料理法はと言うと…。
上:アナゴの蒲焼き。下:ダイナンアナゴ(アナコンダ)の蒲焼き。
上:アナゴの蒲焼き。下:ダイナンアナゴ(アナコンダ)の蒲焼き。
やっぱ蒲焼きでしょう。
白焼きや煮穴子もいいけど食べきる自信が無かったのでこの一品のみにとどめた。だって一きれでこの大きさだもん。
で、やはり濃い味付けの蒲焼きにはご飯が欲しくなるよね。ということで…。
アナコンダ丼!
アナコンダ丼!
丼!穴子丼!!品性と知性の欠落しまくった穴子丼!!!
なんだこれ。大真面目に作ったし、何も間違ったことはしていないのだが、「食べ物で遊ぶな!」と亡くなった祖父母の声が聞こえてくるような気がする。
これ一人で食べていいの!?と心の中の食いしん坊少年が色めき立つ。
これ一人で食べていいの!?と心の中の食いしん坊少年が色めき立つ。
さあ、いざ実食である。見るからに筋っぽくて固そうだが、その味やいかに!
※この男がかぶりついているのはアナゴの蒲焼きです。
※この男がかぶりついているのはアナゴの蒲焼きです。
あ、柔らかいしおいしい。
でも一般的にイメージするアナゴの味とはやはり確実に違う。普通のアナゴより水分が多く、肉の味も薄めだ。肉質こそ柔らかいが脂は普通のアナゴほど乗っていないようだ。
蒲焼きにしたのはもしかしたら失敗だったのかも。
こう書くとマズイのかと思われそうだがそうではない。それなりにおいしい魚ではある。ただ、おいしさのベクトルがアナゴのそれとは違っているので、調理法を独自に工夫する必要がありそうだ。
あくまで「巨大なアナゴ」として扱いたいのであれば、よく水気を切ってから大葉を抱かせた天ぷらを量産するのが良いかなと感じた。

アナコンダ狩りは超楽しい!

調理も試食も大変楽しかったが、今回の取材で最も心に残ったのはやはり船上での釣りであった。こんな都会で1メートルオーバーの大物をバカスカ釣り上げる快感と言ったらなかった。関東在住の人間にとっては最も手軽に強烈な釣り味を楽しめる海釣りかもしれない。いいエクササイズにもなるので、これからの暑い時期の夕涼みにいかがだろうか。その際は獲物を持ち帰って料理法を研究、報告してほしい。

今回お世話になった船はこちら
横浜元町 勇樹丸:http://blog.goo.ne.jp/yuukimaru
またすぐにでも釣りに行きたいけど、まだあと1匹半以上冷凍庫に入ってるんだよなあ…。
またすぐにでも釣りに行きたいけど、まだあと1匹半以上冷凍庫に入ってるんだよなあ…。
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