特集 2016年12月14日

三省堂「今年の新語2016」はなぜ「ほぼほぼ」に決まったのか?

なぜ「ほぼほぼ」が今年の新語2016なのか? マニアに分析してもらいます
なぜ「ほぼほぼ」が今年の新語2016なのか? マニアに分析してもらいます
先日、三省堂が主催する辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2016」の大賞が発表され、大賞は「ほぼほぼ」に決定した。

「え、ほぼほぼって、今年流行ったの?」とか「ずいぶん前から聞くけど?」みたいな疑問をもったひとも多いかもしれない。

いったい、なぜこの「ほぼほぼ」が大賞なのか。

辞書マニアのひとに集まってもらって分析してみた。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 新ニホンケミカル TwitterID:tokyo26

ついに発表された「今年の新語2016」トップテン

12月3日、三省堂が昨年から始めた「今年の新語」というイベントの選考発表会が行われた。それ以降、さまざまな媒体でかなりおおきく報道され、世間的にも注目されたが、ひとつはっきりさせておきたいのは、デイリーポータルZでは、発表前からこのイベントに注目し、事前に取材して「KYは使われ始めて10年目?~三省堂『今年の新語2016』とは?」という記事でも紹介していたということだ。
発表前からちゃんと注目してた俺ら偉い
本当に、こういうことを自ら言うのは恥ずかしいことだし、おろかなことであるのは重々承知しているけれども、言わないと気付かない人も多いので、恥ずかしさをこらえてまず宣言しておきたい。ほめてほしい、この慧眼を。

うっかりエモいに感情移入

さて「今年の新語2016」は「今年の」とはついているものの、あくまで「今年特に広まったと感じられる言葉」をランキングしているので、必ずしも「今年生まれた言葉」というわけではない。

今後、日本語として定着し、辞書に載ってもおかしくない言葉を、国語辞典の編纂に携わっている人たちが選ぶというのがこの「今年の新語」の特徴だ。

2016年の大賞をふくむベストテンはこちらだ。
大賞 ほぼほぼ
2位 エモい
3位 ゲスい

4位 レガシー
5位 ヘイト
6位 スカーチョ
7位 VR
8位 食レポ
9位 エゴサ
10位 パリピ
選外 神ってる
選外 チャレンジ
選外 IoT
前回の取材で話題にのぼっていた「エモい」や「ゲスい」が2位、3位という健闘ぶり。
いや、健闘といっても、べつに応援しているわけではないけれど、やはり印象に残る言葉であったことは確かだ。
三省堂「今年の新語2016」ウェブサイト
三省堂「今年の新語2016」ウェブサイト
ランキングに入ったそれぞれの言葉に関する選評は、三省堂のウェブサイトで確認していただきたい。
左から三省堂の瀧本さん、伊集院さん、飯間先生、小野先生。
左から三省堂の瀧本さん、伊集院さん、飯間先生、小野先生。
選考発表会には、三省堂の瀧本多加志さん、タレントの伊集院光さん、『三省堂国語辞典』編集委員の飯間浩明先生、『三省堂現代新国語辞典』編集委員の小野正弘先生が出演。

選考発表会でのトークは上記の三省堂ウェブサイトの選評を読んでいただければ、会場でも同じような内容が話されたので、だいたいの内容はおわかりいただけると思う。詳細な会場の様子などは他媒体の取材記事などでご確認いただければと思う。

辞書マニアはこの結果をどうみるのか?

ところでこの「今年の新語2016」の結果を受けて、辞書マニアはどのように感じたのか?

ふたりの辞書マニアに集まっていただき、結果を分析してもらった。
右から、辞書マニアの稲川さん、見坊さん
右から、辞書マニアの稲川さん、見坊さん
集まっていただいたのは、以前、漫画雑誌から用例採集した記事で協力していただいた見坊さん。
そして、もうおひとかたは、現在、講談社で校閲の仕事をされている稲川さんだ。
見坊さんも稲川さんも、早稲田大学在学中に国語辞典サークルである「早稲田大学辞書研究会」を立ち上げて活動していたという筋金入りの辞書マニアである。

稲川さんは、ふだんから独自に用例採集(※)を行なっており、見坊さんは「#今年の新語2016」のハッシュタグで投稿された言葉を独自に集計するほどの熱の入れようである。

※用例採集……どんな言葉がどんなふうに使われているのかを記録して収集すること。
投稿された言葉のリストのプリントアウト。この熱の入れようはなんなんだ。褒め言葉としていわせていただきたいが、変態だ
投稿された言葉のリストのプリントアウト。この熱の入れようはなんなんだ。褒め言葉としていわせていただきたいが、変態だ
「今年の新語2016」の結果について分析してもらうのにはうってつけだろう。
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「エモい」は「天然パーマの人」のこと?

まずは、今回の選考結果について、どう思うか伺った。
どれも古いだろ、というのが第一印象でしたね。エゴサとか、パリピとかエモいもですが、ほぼほぼも含めて、ちょっと古いかな? というところですね。
いきなりアゲインストできましたね……「エモい」はいつごろから使われてるんですかね?
2005年にはすでにありますよね。もっと前からあったと思うんですが。
選評にもありましたが、この本に「エモい」が載ってるんです。
2006年に出た「みんなで国語辞典!」という書籍
2006年に出た「みんなで国語辞典!」という書籍
よく見るとちょっとおもしろくて、エモいに「天然パーマの人のこと」っていう意味も載ってるんです。意味がわからないんですが。

二番目の語釈に「天然パーマの人のこと」とある。なぜそんなことになってるのかは謎(『みんなで国語辞典!』大修館書店より)
二番目の語釈に「天然パーマの人のこと」とある。なぜそんなことになってるのかは謎(『みんなで国語辞典!』大修館書店より)
あ、ほんとだ。なんで天然パーマがエモいのかよくわからないですけど。この本って、一般の素人が自分の周りで使われている言葉を投稿して作った本ですよね。
そうです。「エモ」で言えば、『現代用語の基礎知識』にも載ってましたが、「エモい」という形ではこちらのほうが古いです。
辞書類で載せてるのは『大辞林』が早くて、2005年の3月には載せてるんですよ。デジタル版の方ですが。
とにかく、エモ、エモいじたいは10年ぐらい前から使われ始めていた言葉なんですね。

だから「古いじゃん」って思ったわけですね。
たしかに、「VR」だって、言い方こそ新しいですけれど、バーチャルリアリティ自体は昔からありますしね。
ただ、今回「IoT」が選外になりました。これは、選考発表会で、飯間先生が「IoTは確かに新語として今年ぐらいから使われ始めましたが、まだ一般にIoTが定着はしていないのではないか?」ということで、選外になったとおっしゃってました。
「IoT」。これもよく聞くようになったことばです。「internet of things」(モノのインターネット)で、家電などをインターネットにつないで便利に使うことを指します。現在のところは、まだ「ことば先行」という印象もありますが、家電をネットにつなぐのが当然という時代が、遠からず来るでしょう。
三省堂「今年の新語2016」選評より
それは確かにそうで、IoTの技術やしくみがまだ浸透してないのはもちろんですが、もし仮に将来IoTが身の回りで普通に使われることになっても、果たしてそれはIoTと呼ばれているか? という問題もあるんですね。
将来にわたって、そのままの名称で使われるとは限らないわけか。
だから、VRが今年選ばれたのは、バーチャルリアリティと言われていた技術が、身の回りでどんどん使われるようになってきて、言葉も「VR(ブイアール)」として浸透してきたからと言えますね。
移動電話とか自動車電話と呼ばれていた技術が、どんどん進化して、携帯電話から携帯となり、スマホと言葉も変わっていったように、技術の言葉は定着を判断するのは難しい。
その点「言葉の定着を評価する」「今年の新語」が、2016年に「VR」という言葉を選ぶあたりは、らしいといえる。
VR技術はやっと定着しはじめた
VR技術はやっと定着しはじめた
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選評を読むと納得できる結果

第一印象はたしかに「古いな」とは思ったんですが、選評を読んでみると、どれもなるほどなと、納得できるんです。
定着をどう判断するかですね。例えば「変態」って言葉ありますよね。一般的にはマイナスのイメージで使われる言葉ですが、特に音楽の分野で多いんですけど、ものすごい超絶技巧を「変態的」みたいに褒める文脈で使われることがありますよね。
たまに見かけますね。
もしこれが一般化して、スポーツなんかでものすごいテクニックを褒める意味で「さっきのプレイ、変態でしたねー」って普通に使って、言われた方もなんのてらいもなく、うれしくおもえるようになれば「定着した」っていえるんでしょうね。
たしかに今だと「さっきのプレイ、変態でしたねー」ってエロい意味にしか聞こえませんね……。
そういう意味では、(今年のランキングは)順当なというか……なんか偉そうですけど、納得できるかな? と思いました……。ただ、パリピは、定着するかなぁ。どうですかこれ、定着してるんですか?
いや、まあ定着してると思いますよ。……パリピって褒め言葉じゃないですからね。「リア充」に代わる言葉として使われ始めてて、嫌いなひとからすれば「あのパリピが」というふうに使いますからね……。

言語学者がおもしろいと思った言葉が選ばれている

パリピは、選考発表会で小野先生が「パーリという語形がおもしろい」とおっしゃってました。
小野「10位のパリピなんですが、これは「パーティー」という言葉が「パーリー」というふうに、アメリカ的な英語の発音に近くなってきている。
私は日本語の歴史が専門なものですから、これは、外来語の形が変わってきている点で非常におもしろいとおもいました。
おそらくこれは、最初はたぶん「パーチー」だったんじゃないかな? その次に「パーテー」があって、そしていつのまにかちゃんときれいな発音で「パーティー」になったんだけれども、ついに「パーリー」まで来たかと。
そうなると、もしかするとこれから「ウォーター」も「ワラ」になるかもしれないし、「ボディ」も「バディ」になるかもしれない。そうやって外来語が変わっていく先鞭をつけているのではないかと」
選考発表会での小野先生の発言
外来語の語形が変わってきているという話ですね。パーチー、 パーテー、パーティー、パーリーと。
パーティーの語形が変化している
パーティーの語形が変化している
こういう言葉のおもしろさが選考理由に入ってくることが多いんですよね、この賞って。つまり言語学者が見ておもしろいと思う言葉がランクインする
エモいも珍しいって選考理由にありましたね。
日本語では、「四角な→四角い」「黄色の→黄色い」というように、「特別ではなく普通の日本語の一員になった」と感じられる場合、形容詞化が起こることがあります。ただ、外来語が形容詞化することは大変少なく、1970年代末の「ナウい」、現在の「エロい」「グロい」ぐらいしか例がありません。「エモい」は稀な例と言えます。
三省堂「今年の新語2016」選評より
去年の新語大賞だった「じわる」なんかもまさにそうで、「じわじわ」に「る」をつけて動詞化しているのがおもしろいと。
逆に「爆買い」なんかは、昔から「爆ナントカ」がいっぱいあるから、選外。みたいに、語形としてよくある形でつまんないから選ばないというところはありますね。
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「ほぼほぼ」はつまらない?

言語学的におもしろいかどうかといったら「ほぼほぼ」なんかはぜんぜんつまんないんですけどね。
お、ちゃぶ台ひっくり返すようなこといいますね。そうなんですか?
そう、そうなんですよね……。最初は、ほぼほぼなんて(言語学的に)つまんない言葉がランクインするとは思わなかったんですよ。でも、今は選評読んでなるほどなと、納得しているんですが。
ぼくはつまんないと思ってますよ。つまんない言葉だけど、それを押しのけるだけの、今年選ぶ理由が強いんだと、納得してます。
「ほぼほぼ」の選評を読むと、「ほぼほぼ」は60年以上前から使われている例があり、2010年代から顕著に使われるようになってきたこと。今年、テレビ番組のタイトルや書籍のテーマとして注目されはじめ、新聞記事などでとりあげられるようになり、大賞に決まった、ということらしい。まさに満を持して、である。

ただ、言葉の形としては、二回重ねて強調することは、昔からよくある言葉の使い方なのだ。

急に使われはじめた「ほぼほぼ」

これは糸井重里さんの10年以上前の本なんですが。
2005年発行だが、ウェブでの連載は2003年ごろと思われる
2005年発行だが、ウェブでの連載は2003年ごろと思われる
中に、重ねる言葉を集めたページがあるんです。
大人がよく使う言い回しを集めた本
大人がよく使う言い回しを集めた本
そこをみると「きんきん」とか「カツカツ」みたいなのは載ってるんですけど、「ほぼほぼ」は載ってなくて、ただ、重ねた言い方で強調する手法は、昔から多かったってことが分かりますよね。
これだけ重ねた表現を集めているのに、ほぼほぼは載ってないんだなあ。
「ほぼ日刊イトイ新聞」なのにですよ。知ってたら絶対載せてるはずなんです。だから、ここから『現代用語の基礎知識』に「ほぼほぼ」が載った2011年ごろまでの間に一挙に使われ始めたということですね。

「ゲスい」よりは「神ってる」の方がランクインしてもよかった

「ゲスい」もまあ、納得感は薄いんですけどね。
稲川さんの感想ではですね。
ぼくもあんまり納得感は薄いな……。
ふたりそろってなんなんですか? 三省堂さんに(この原稿の)チェック出す僕の身にもなって下さい。
ゲスいって、江戸時代からある言葉で、『日国』(『日本国語大辞典』=日本語の辞書としては収録語数最大)にも立項(単独で項目がたてられてること)されているんです。
でも、昔と今では意味が違うとか……。
いや、同じですね。
選評では、昔からあった言葉だけど、あまり使われておらず、最近になって注目され始めたって書いてありましたね。まあ、理由としてはそうだと思います。
3位の「ゲスい」は、「下品だ」「やり方があくどい」という意味で使われます。(中略)漢字では「下種い・下衆い」と書きます。身分の低い者を表す「下種(げす)」の形容詞化で、歴史的には、江戸時代にすでに例があります。
その後、現代に至るまで、「ゲスい」の例は、あるにはあったものの、あまり目立ちませんでした。
(中略)
長い歴史がありながら、少し前まで必ずしも常用語でなかった「ゲスい」でしたが、一種のリバイバル現象を起こして、若い世代にもなじみのあることばになりました。今年の新語の上位にあっていいことばです。
三省堂「今年の新語2016」選評より
「ゲスい」が3位で「神ってる」が選外か。
むしろ「神ってる」の方が入ってもよかったようなきがするんです。つまり、新しいから。これは2014年に出た『女子大生ヤバイ語辞典』という本なんですが、「カミッテル(神ってる)」はそれにすでに載ってるんです。
『女子大生ヤバイ語辞典』主婦の友社
『女子大生ヤバイ語辞典』主婦の友社
たしかに載ってますね……。
「神ってる」という形でもっぱら使われるようになったのはカープの緒方監督のおかげなんですね。
終止形は「神る」で、辞書に載せるならたぶん見出しは「神る」で立つのかな、わからないけど。
いや、わかりますよ。つまりその「終わる」と「終わってる」の違いみたいな感じですよね。
連語なんですよ「神ってる」というのは。だから、終わる、終わってるの対応関係と一緒なんですね。
「神ってる」は、新しく出てきた、いい加減な使い方の言葉かと思ったら、ちゃんと日本語のルールの中で説明できる変化をしてるだけなんですね……なるほど。
だから、新しさで言えば断然、神ってるだし、これから流行語色が薄れていくということを考えれば、ゲスいは古すぎるから選外で、神ってるは新しい言葉として定着する可能性を考えてランクインしたとしても、説明はつくと思うんですね。
稲川さんが個人的に行っている新語の用例採集では、野球以外での「神ってる」の使用例がいくつかあった
稲川さんが個人的に行っている新語の用例採集では、野球以外での「神ってる」の使用例がいくつかあった
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神ってるはどこで使われていたのか?

「神ってる」は、聞いたことないというひとがいっぱいいて、それだけならまだしも、怒ってるひとまでいますもんね。
言葉に対してはそういうのありますよ、それは新語に限らず、普通の国語辞書でも「こんな意味はおれは知らないから認めない」なんていう人もいますからね……。
聞いたことある、ないで言えば、私、神ってるは全然聞いたことないんですけど。
まあ、ぼくもそんなに聞いたことはないですね、ニュースで使ってるのは見たんですけど。普段の会話で「神ってる」が使われてるわけじゃないんですね。
スポーツニュース見てると、今年の下半期はほぼ神ってる神ってる言ってましたね。
飲み屋とかで、野球好きのおっちゃんの会話に耳をそばだててると、聞こえてきたのかな? という気はしますね。
去年、ユーキャンの新語・流行語大賞で「トリプルスリー」が大賞受賞しましたけど。これ、発表された時「しまった! 用例採集してなかった!」って思ったんです。
稲川さんが個人的にやってる新語の用例採集で採集してなかったということですね。
でも、後で調べたら、ちゃんと用例採集してたんです。トリプルスリー。ということは、一度見て、ちゃんとメモった言葉でさえ忘れてるってことなんです。だから、聞いたことないっていっても、ただ忘れてるだけ、という可能性もあるんですよ。

ファッション枠があるのでは?

聞いたことない言葉でいえば、スカーチョはみんなほんとに知らなかったですよね。
スカンツ、こういうやつです
スカンツ、こういうやつです
スカーチョ……入んないと思ったんですけどね……。まあ、ファッション枠ってのはありそうですね。
ファッション枠というものがある?
あるんじゃないか? とおもってるんです。
去年は着圧ってのがランキングに入ったんですけど、これは調べてみるとけっこう前から使われてる言葉なんで、なぜ 2015年の新語に選ばれたのかはよくわからないのですが、その点、スカーチョは、今年ぐらいに生まれている言葉なので、今年の新語というにはふさわしい、バッチリなんですよね。
スカーチョ、スカンツは新語としてはピッタリなんですが、定着度でいうと若干? となるんです。
去年の着圧はおそらく、新語とか思わずにみんな使ってたんじゃないかな。
ファッション疎いからピンとこないんですよね。
ぼくも疎いんで、ファッション誌は意識して読んでるんですが……スカーチョ……このメンツ(「今年の新語2016」のランキングの言葉)の中でいうと、断トツで新しい言葉ですから、不思議な感じは受けますね。
仮にファッション枠があるとして、他にどんな言葉があるんですか?
まず「ヘルシー」というのがあります。これは「セクシー」の反対で「健全な」という意味で使われます。
だから「ヘルシーなファッション」といえば、エロさがない、爽やかなファッションという意味になるんですね。
ヘルシーの用例採集データ
ヘルシーの用例採集データ
これは数年前から使われてて、すっかり定着していますから、今年の新語の中に混じってても遜色ないと思いますね。
あと、ちょっと古いんですが「甘い」「辛い」というのもあります。
ファッション用語でですか?
そうです、ファッション雑誌では、もう何の説明もなく普っ通ぅーに、カギカッコとか傍点とかなしで、甘辛ミックスとか、甘いファッション、辛めコーデみたいに出てきます。
全く知らなかったです。ファッションそのものじゃなくても、ファッションの様子を表す言葉も、独特の言い回しがあるんですね……。

「エゴサ」は誤用? エゴサする将軍?

「食レポ」ということばがランクインしたのがおもしろいなと思ったのは、これってSNSやらブログやらで情報発信するひとが多くなったから使われるようになった言葉ですよね。
そうですね。
前回のインタビューの最後で出た「とれ高」(取材の成果)という言葉なんかもそうですけど、30年前だと、ふつうの人には必要なかった言葉がランクインするのがおもしろいですね。
とれ高はいいですよね。結果を量的なイメージで表現できるところが新しいんですよ。成果だと質的な感じがして表現がぼやけるんですが、とれ高だと単純に多い、少ないで言える。
30年前なら必要なかった言葉といえば「エゴサ」もそれに近いのかな。
今回、今年の新語では、小野先生の「エゴサ」の語釈が自分以外のものを検索することもエゴサということに言及してるのもすごいと思いました。
エゴサ〈名・他動サ変〉[←エゴサーチ]インターネット上で、自分の名前や運営しているサイト名などを検索して、その評判や評価を確認すること。「―したら、むちゃくちゃ書かれててまじへこんだわ」[「自己」を意味するラテン語egoと、「調査する」を意味するsearchから。近年は、自分以外のものを検索する場合も言う場合があるが、これは「マイカー」が他人の車についても言うようになったことと類似している]
『三省堂現代新国語辞典』風語釈
マイカーとの対比というところが素晴らしいですね。これ、選考発表会の会場で聞いてて唸りました。
「自分以外について調べること」をエゴサというと、みんなツイッターとかで誤用だ誤用だと騒ぎますが、小野先生は「マイカー」だってそうだと指摘されてて、これは気が付かなかったですね。
エゴサは自分自身がなにか世界に対して発信というか発言してなければ、必要ない言葉ですから、実に今っぽい言葉です。
エゴサは江戸時代には生まれない言葉ですね。
江戸時代のエゴサってなんだろう?
あれじゃないですか? 暴れん坊将軍が徳田新之助の格好して町に出かけるのがエゴサじゃないですか?
あー、そうですね「吉宗、エゴサにハマる」ですね……最近エゴサで僕がおって思ったのは、「エゴサしてるアイドル」っていう、アイドルのポスターを見たんです。こういう、みんなに見せるポスターでエゴサってつかうんだと、そのときに「エゴサ市民権得たな」と思ったんです。しかも「エゴサーチ」の形ではなく「エゴサ」でです。
なるほど、アイドルのことについてSNSで発信すると、アイドルがエゴサしてるから、見てもらえると……今っぽいですねぇ。
今、それを聞いてめっちゃ納得しました、今年、エゴサがランクインしてるの。
エゴサするアイドル
エゴサするアイドル

流行語大賞は年変わってからやればいい

11月、12月ぐらいに出てきた話題ってのはこういう賞になかなか入らないですね。今だとキュレーションとかですよね。
これだけ大騒ぎしてるのに、流行語大賞には入らないですよねえ。
流行語大賞って、年変わってから決めればいいじゃないですか?
そうそうそう、そう思いますね。明治安田生命の今年の名前とかも11月には結果出しちゃってますけど。
だから、いっつも12月にカタストロフィ起きねーかなーって思ってますね。
いやいやいや、不穏だな! オックスフォードの今年の言葉も11月ですしね、ポストトゥルース。
もう、最近は話題の移り変わりがものすごく早いから、1ヶ月あるとけっこうなことあるんですよね……。

2年ぐらいコールドスリープしたい

日々新しい言葉がうまれては消えていっている。「トランプ旋風」なんて、2年前には想像もしなかった言葉のひとつだ。

いちど、2年ぐらいコールドスリープして目覚めてみたいという願望がある。そうすると、おそらく「トランプ旋風」なんて言葉を聞いても「なんで急に任天堂が原点回帰したんだろう?」となるに違いない。

スマホ捨てて山ごもりすればいいのだろうか。
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