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特集


はっけんの水曜日
 
トマトラーメンめぐり

「有楽町にトマトが入ってるラーメンを出す店があるよ」
……という話を、人からきいた。
「何それ、スパゲティみたいなの?」
「いや、なんというか、普通のラーメンにトマトをザクザクッて切ったやつが入ってて……」
「どんな味?」
「えーと」
「覚えてない?」
「……うーん、食べたのずいぶん前だから。でも、違和感は意外となかったなあ」
「へえー……って、えー??」

想像がつかない。トマトとラーメンって、合うんだろうか……? 
ナゾに思って調べてみると、「トマトラーメン」を出す中華料理店及びラーメン店が、都内に結構あるみたいじゃないですか。

いや、これは食べてみるでしょう。

(text by 大塚幸代

JR有楽町のほんとうに真ん前、というかガード下に、その「中園亭」はあった。


映画のセットみたいだ。なんだか全体的に調度品が小さい。日本人の平均身長が、今より5センチ低かった時代からある店なのかもしれない。
パリっと白いノレン。店内も古いけれど、清潔感がある。2階席もあって、夜は中華をツマミに、サラリーマンたちが長居するのかな、と想像した。

とりあえず店頭のメニューの見本のロウ細工を見る。
おおおう、あるある。



トマトそば、890円。その価格設定が適正なのかどうなのか、サッパリ分からないが。

中に入ると中国人らしき女性店員二人(茶髪)が、座ったまま顔をぱっと上げ、「イラッシャイマセー」と声を合わせて言った。
はしっこの席に座る。
普通の中華屋と何か雰囲気が違うなあ、何が違うのかなあ……とよく考えてみたら、「店内が妙に明るい」ことに気づいた。白い蛍光灯が、ばりばりと店内を照らしている。
こんなに明るいということは……やっぱり長居する店じゃないんだろうか?
「すいません、トマトそばを……」
「ハイー、トマトソバー」
厨房に向かって女性がオーダーを叫ぶ。どうも雰囲気からいって、調理人は日本人みたいだ。調理人が中国人の場合、中国語で何か言うじゃないですか。
瓶ビールを飲む時に使う小ぶりなコップに、冷水が運ばれて来る。
水を飲んで落ち着くと、店内の音楽が気になってきた。
なぜかサンバがかかっていた。
……なぜにサンバ?

隣に年配の男性2人連れが座って、ビールを頼んだ。
チャーララララララチャララララ〜
「おっと、ごめんよ」
男性客の一方が、携帯に出た。
私は「あれ、この演歌っぽい曲何だっけ?」と、その曲名をずっと考えていた。

女性店員が、厨房に向かって、シフトのことに文句を言っている。
「ワタシー、マイニチハイル、ワタシー、ツカレル、ワタシー、ニチヨウヤスミタイ」
厨房が何かしら答えている。
「*****!」
女性が文句を言っている。どうやら彼女の希望は叶えられないみたいだ。

しばらく待つと、ソバが運ばれて来た。



セロリ、白菜、肉だんご。トマトは軽く火を通してあった。
ずずー……。基本、塩ラーメン、というかタンメンみたいだ。
というかこれ、タンメンのトマト乗せじゃないのか?

味は、確かに違和感はなかった。特に肉だんご、うまい。肉だんごとトマトとスープを一緒に口に運ぶ、うまい……ような気がする。
いやでも、うーん。

「……あっ」

隣の席の、さっきの着信音が、「ズンドコ節(たぶんドリフターズ・バージョン)」だということに、やっと気がついた。
彼はあの着信音、自分でダウンロードしたんだろうか? ズンドコ節がデフォルトで入ってるわけないし……いや、最近の50代は「わあ、ドリフだあ、着信音にしちゃお!」とラクラク作業しちゃうんだろうか。
それとも、会社の若い女子社員に、飲み会でやってもらったとか……。
しょうもない妄想をふくらましながら食べる。



「たぶん、よっぽどのことがなければ、この店はもう一度は来ないかもなあ……」
と思いながらメニューを見返すと、「レモンそば」もあった。
まじで!?
ああ、今度この周辺で用事があったら、これ食べに来ちゃうんだろうなあ。

店を出ると、さっきシフト交渉を失敗した店員が、無表情のままホースを使ってゴミバケツを洗ってた。

●中園亭
千代田区有楽町2-8



 

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