「……うわ、むきにくい!」
「……なんかさあ、これ、すっごい大変な作業じゃない?」
「かもね」
テレビを見ながら作業する。
「あ、美輪明宏!」
「美輪さまの本読むと、女はピンクの服着ろ着ろってうるさく書いてあるよねー」
「モノトーンはアウト、って書いてあるよねー」
「アタシ完璧に駄目だなーって思うもん、逢ったら説教されると思う」
「まあ、逢わないよ」
「そういえば、テレビでやってた『もののけ姫』観たよ−」
「あれなー、美輪さまが声やってるバケモノが怒るシーンあるじゃん」
「あるあるー」
「あそこで、自分が怒られてるような気分になっちゃって、そこが恐かったねえ」
「恐いよね、あそこは」
「他は……覚えてないわ」
どうでもいい話をしつつも手を動かす。
「そういえば彼氏に『友だちの家で、ドングリでモンブラン作るのー』って言ったら、『いいかげんにしときなさい』って言われちゃった」
「あー……ごめん。まあ、普通はそう言うか。つーか彼氏元気?」
「相変わらずでこれが……」
(中略)
「人間て変わらないよね……」
「つーか他人を変えよう、っていうのが傲慢なのかも……」
「自分も変われないしな」
「あのさー、自分の精神年齢っていくつだと思う?」
「………8歳」
「低っ!」
「じゃあ、ゆきよちゃんは?」
「ええ、私!? んー19歳かなー」
「なんで?」
「なんでだろう。……19歳のときだけ、何か知らないけど自分に自信があったんだよねえ…」
高校時代からの友人なので、単純作業しながら長く会話すると、どうしても暗い話になりがちだ。しかも話が暗くなってることに、話してる間は気がつかない。いかんいかん。
「……っていうかもう、むけるドングリ、なくなっちゃったんだけど」
「もう1回、炒ってみますか」
再度フライパンにかける。今度は弱火で、じっくり焦がしてみた。
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