「申し訳ないんだけど、私の肉じゃが、多分肉じゃがの味しないと思うんだよねえ」
--……? は?
「めんつゆだけで作るから」
--え、砂糖とか酒も入れないの?
「入れない。めんつゆの味が好きなんだよね」
自宅への帰りが遅いため、ちゃっちゃと作って早く食べたい。そのためだけにカスタマイズされた肉じゃがだそう。
一人暮らしだけあって、料理にはとにかくワンマンが効く。肉じゃがというと、家庭の味というイメージだが、一人用として作ることで、どんどん理想の“肉じゃが”像から離れていくということが私や三女の作り方から分かる。
それにしても白滝だ。切っている時点で量が多いのでは? と思っていたのだが、鍋に入れてみるとやはり多い。
--ちょっと白滝多すぎない? 調節しなくてよかったの?
「あ、これね。煮てる間に白滝だけつゆをからめて食べるの」
なんと、“途中で白滝をつまみぐいする”ということも想定済みの調理なのだった。それだけお腹をすかせて家に帰ってくるということは、痛いほどよく分かった。
できあがった肉じゃが、そのままめんつゆの味である。たしかにマズい訳ではないが。
3姉妹の肉じゃがを眺めると「実家の母の味」を全く追い求めない料理姿勢があらわになっている。肉じゃが的には一家離散だ。
続いてはいよいよ問題の祖母に肉じゃがを作ってもらいます。
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