撒きまくる
「これから闘うんだぞ!」という気持ちと共に、塩を撒いた。
豪快に!
広々とした場所で、誰の目も気にすることなく塩を撒く動作は、とても気持ちの良いものだった。シートの上に落ちるバサバサーッという音もない。
「塩を撒くのは一連の所作の中のひとつ」ということを頭に入れると、自然に体は次のような動作へと移行する。
ここまでやって、初めて「塩撒き」は完成するのだ。
中村さんも「そこまでやると、それっぽく見えるね」と納得してくれた。良かった。満足だ。
それにしても、私の仕切りのダメさ加減はどうしたことだろう。入門したての外国人力士でも、こんなに腰は高くない。情けない。
仕切りの練習は家の中でも出来る。しかし、塩を撒くのはたぶん二度と出来ないだろう。
そう思うと、塩を撒くことを止められなかった。
心残りのないように、何度も撒いた。
途中、子ども達が好奇心丸出しで寄って来たりもしたが、母親から「そっち行っちゃダメ!」と連れ戻されていた。
あ、いや、あの、お母さん。怪しい者ではありませんから。それにこれ、塩ですから。お子さんが転んで擦りむいても、殺菌作用があるんですよ。えーと、あのー…。