●幻となって漂う栗を求めて
わかってる、本当はわかってる。世の中には露骨に栗が入っている栗菓子があることは知っている。
むしろそういうお菓子の方が大勢を占めているということも、本当はわかっている。ただ、私が求めているのはそういうことではないのだ。嘘と真実との間を、はかなくたゆたう栗を食べたいのだ。
そんな私を見かねて、妻がまた新たな栗菓子を買ってきてくれた。
くりまんじゅうである。栗菓子の定番だ。
これまでのお菓子と違い、フォルムそのものは栗ではない。ただ、ツヤのある上部とマットな下部とのコーディネートが本物の栗と実によく似ている。テクスチャが栗なのだ。
見るからにうまそう。さあ、食べてみよう。
ほくっとした皮と、しっとりとした中身。口の中で二つの部分が混ざっていく中で、心に山里を思い描いてみる。そう、遥か彼方からじんわりと栗の味が……。
してこない!
えー、だってくりまんじゅうって言ってるじゃん。そう名乗ってるじゃん。なのにまた栗がないのか。
絶望するのはもう慣れた。それでも期待を捨て去ることができず原材料を見てみるが、やはり悪い方にビンゴだ。栗がない。むごい。
栗そのものを食べることはたやすい。ただ、夢と現実の狭間にある栗を食べることはこんなにも困難なのだ。
話はまだ続きます。