●かわいくなさを求めてもがき続ける
そうだ、鳥類はどうだろう。いわゆる動物というカテゴリからするとちょっと微妙だが、鳥ならではうつろな感じはかわいいという感覚とは距離があるのではないだろうか。
鳥ならばやってくれる。そんな期待を込めて、いろいろな鳥たちがいるコーナーに急ぐ。
鳥たちを見つめる。あれ、やっぱりこれってかわい…。
妻にかわいさについて問いかける前に、自分の中で価値が揺らいでいる。おかしい、こんなはずでは。鳥ならば大丈夫だと思っていたのだが…。
妻に問うまでもなく、明らかにかわいい鳥もいた。
「かわいいね」 「うん、かわいい」
おかしい。鳥たちまでもかわいい。むしろかわいい瞬間を狙ってシャッターを押している自分がいる。これじゃまずい、自分の中の負の感情を思い起こすんだ。
…そう、僕が女の子を好きになったとき、ライバルはいつも動物だった。
動物たちに「かわいい〜」と歓声をあげる女子たち。そんな中に自分の好きな子がいると、動物に対する敵対心が湧き上がってきた。ちっ…動物め…。
くそっ、動物さえいなければ…。
そんな風に問題の根本を見誤っていたあの頃。しかしそのとき燃え上がった炎は、今でも心の奥でくすぶり続けている。結婚したってその火が絶えることはない。
そんな思いを乗せて放つ動物がこれだ。
なんだか神秘的なたたずまいを見せるマレーバク。動物界の不思議系と言ってもいいオーラだ。これはかわいくはないだろう。頼む、そうだと言ってくれ。
「これはかわいくないよなあ」 「うーん…」
もうひと押しか。ここで顔のアップをどうぞ。
「かわいくないだろ、かわいくないよな」 「そうねえ、これは…」 「かわいくないよなあ」 「うーん、かわいくないところがまたかわいいというか…」
なんだそれは。言ってることがおかしいじゃないか。意地になってそんな風に言っているのかとも疑ったが、別にそういう風でもなく、自然とそう感じているようなのだ。
「ほら、よく見ると、なんていうか、かわいいじゃない」 「そうかなあ…。うーん、そうかもなあ。」
もういい、動物はかわいい。
ミッションは失敗だ。はじめのうち、これはやばいだろうと思っていたマレーバクでさえ、もう今となってはかわいい。
説明しがたいかわいさが私を襲う。私の負けだ。しかし決して悔しい気持ちが残るわけではない。むしろさわやかな風が私の中を吹き抜けたような気分でもあるのだ。
●たどり着いた動物との融和
動物のかわいさは偉大だった。企画の意図からすれば、結果として勝負には負けた。
しかし、敗者は常にみじめであるというわけではない。内なる壁を突きぬけ、動物に新しい気持ちで接することのできるステージにたどり着いたのだ。
さようなら、動物を妬む気持ち。こんにちは、素直な心。
人は生きながらにして何度でも生まれ変わることができる。これから先の人生は、穏やかな気持ちで動物に接していくことができると思う。