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ロマンの木曜日
 
伝説のお弁当屋さん

そして伝説となった

「キッチンクラナハ」の最終日。僕は閉店を見届けたい、という想いもあったのだが、それよりも最後にあのドライカレーを食べたくて少し早めに家を出た。

ところがそんな日に限って電車が事故で遅れ、初台に着いたのは12時少し前だった。

急いでお店に向かうと、そこにはかつて見たこともない大行列ができていた。


なんじゃこりゃあ

ざっと数えても30人以上の人が並んでいる。驚いて行列の写真を撮っている間にもどんどん並んでくる。とうとう行列は薬屋の前を越え、その隣のコンビニの入口をも越えた。

寒い日だったが、皆黙って並んでいる。事情を知らない通行人は何事かと二度見して通り過ぎる。あとからやって来た人が「えー!」と声を上げている。「これじゃあ無理かもね…。」溜め息まじりにつぶやく。

すごい、これは伝説としてしっかり記録しなければ、と、この記事に対するプレッシャーを少し感じたが、すぐにそんな傲慢な考えを改めた。僕が深く考えなくても、これは伝説になる。いや、もはや伝説だ。


そりゃこんな行列見たら驚くよねえ 4個も買っていく勝ち組のお姉さんに視線が集中

行列はかつてない長さを保っているが、僕が並んで数分後のちょうど12時頃、「すみません、ごはん売り切れです」と田沼さんの声が響く。

それでも、ルウだけでもという想いなのか、それとも僕と同じように閉店を見届けたいのか、列から抜ける人はほとんどいなかった。

そしてさらに数分後、「すみません、売り切れました」。80人分の最後のドライカレーは、約40分で完売した。


売り切れ宣言後も並び続ける人たち 記念写真を撮っていく人も何人もいた

さすがにこれで行列から多くの人が抜けたが、最後まで並んでいた人は皆口々に

「どうもありがとう」

「おつかれさま」

「ごちそうさん」

と、田沼さんに一言声をかけてから去っていった。

すごい光景だ。

たった4年間、お昼の1時間ちょっとお弁当を売っていた店だ。

しかし、多くの人に愛され、感謝されていた。利用者と店とがこんな関係を築けるなんて奇跡に近いと思う。


売り切れても並んでいた人たちがお礼をしていく 伝説を作り上げた田沼さん、お疲れさまでした!

こうして、「キッチンクラナハ」はその短い歴史に幕を下ろした。

どうしてここまで支持されたのかは分からないが、話を聞くかぎり、田沼さんはお店の装飾やデザイン、メニュー開発など、全てを「自分が楽しい」方向に拡げてきた。その楽しさを客である僕たちが共有することができ、それから細やかな気遣いが多くのリピーターを生んだのではないだろうか。

週が開けて、何となく「キッチンクラナハ」があった場所に行ってみた。


何も停まっていなかった 閉店のあおりか近くのマックは大混雑

やっぱりお店はやってなかった。

 

最後のドライカレー

どうしても食べたかったので、電車が遅れているのが分かった瞬間、職場が近いクラナハファンの知り合いに頼み込んで買っておいてもらった。

あ、それから「クラナハ」の意味は田沼さんが好きな画家の名前で、それ以上は特に意味がないとのこと。

レシピを訊いておけばよかった

 
 
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