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ひらめきの月曜日
 
意味を持たずにものを見ること(団地×エレベーター)

対談 『意味を持たずにものをみること』

大山さんが団地に興味を持ったきっかけ

大:さんざん聞かれるんですけど、きっかけらしいきっかけはないんですよね。ある日大学院の最後の年に、突然団地を撮ったら面白いんじゃないかと思ったんです。団地の神様が降りてきたと説明してるんですけどね。
梅:きっかけらしいきっかけはないということですかね。
大:ないですね。僕は別に団地が好きだったわけでもないし。
梅:確か大学で建築か何かを勉強されてませんでしたっけ?
大:えっとね、建築じゃないんだけど工学部の中にあるデザイン学科はちょっと特種な感じなんですけど、そこで都市計画というか街づくりの勉強をしていて。街を歩いて何か見つけるという訓練は確かに受けてました。まあそれと団地とは関係がないような気がするけどね。
梅:あるようなないような、ですね。今やってることで、大学のころの勉強が生きていたりしますか。
大:うーん、自分ではぜんぜん思いません。ほかの大学に行っててもたぶん似たようなことをやってたんじゃないですかね。分かんないけど。

大山さんの著書『団地さん』について


団地さん(画像は大山さんの個人サイトより)

梅:“さん付”なんですね。
大:ペーパークラフトの本にしようって決まって『手乗り団地』という名前の本にしたいとか思ったり、『プチ団地製作所』とかいろいろ名前の候補はあったんですけど、ペーパークラフトの本って売れないんですよね。
梅:(笑)。まあそうでしょうね。
大−僕としてはペーパークラフトを本気で作ってくれなくてもよくて、団地のかわいらしさが伝わる手段として、例えばペーパークラフトがいいんじゃないかと思って。で、中はけっこう写真もあって、旧・公団が持ってた建設当時のかわいい写真とかをお借りして普通に乗せてます。
梅:公団にお話を伺ったんですか?
大−そうです。ペーパークラフトを作るって言ったら図面とか見せてもらってすごく嬉しかったですね。
梅:団地好きがここまで来たか、って感じはありますよね。
大:そうなんですよ。やっぱり中に居る人の話を聞くと、ほこりと自信とプライドを持ってやっているんだな、と。あとは単純に団地ってかわいらしいデザインだっていうのがあるので、これらを感じつつも、かつペーパークラフトっていうのを感じさせない名前として『団地さん』という名前を付けました。
梅:なるほど。

もう一冊の著書『団地の見究』について

梅:もう一冊のほうが…
大:もう一冊が満を持して団地の写真集です。先に工場とかジャンクションとか出しちゃって最後になっちゃったんですけど。写真集なんですけど、写真集にはしたくなかったんです。写真集はあまり売れないので。僕がウェブサイトでやっていることと同じようにバカバカしい文章を添えて。タイトルは『団地の見究』です。
梅:総決算ですね。
大:そうです。何年も前からいろんな出版社が写真集出しましょう、って言ってくれてたんですけど、写真集を作りたがるんですよね。コンセプチュアルな撮り方をしているのでそうなるんだろうと思うんですけど。僕はもっとふざけたものがよくて、手に取りやすくて売れて写真とかアートとか建築とかにまったく興味のない人が「何これおかしー」って言ってくれて買えるぐらいのノリと値段にしたいというのがありました。だけどなかなかそこを理解してくれる編集のかたがなかなかいなくて、単に自分も忙しかったというのもあったんですけどね。
梅:どこから出すんでしたっけ?
大:工場萌えと同じ編集者と出すんです。東京書籍というところなんですけど。「工場萌え」の石井さんの写真と僕の文章と言うのもアイディアは編集者さんで、デイリーポータルZをよく読んでらっしゃって声をかけてくださったんですよね。ああいうふざけたノリでいいんですか?って聞いたらあれを書いてほしい、と言われたんですよね。工場の写真集にするつもりはないと言ってくれたので、素晴らしいな、と思って団地の写真集も実は作りたいんですけどって言ったらそれをやりましょう、って言ってくれて。
梅:タイトルは?
大:『団地の見究』という本です。『DESIGN QUARTERLY』という雑誌にそのタイトルで連載をしていて、出版社は違うんですけどあのタイトルがいいと思ってタイトルを使わせてもらって。
梅:10年ぐらいのベストが入っているってことですよね。
大:まあ、そうです。

インフラは面白い?

梅:今日ずっと話してきた中で、電気とかガスとか水道とか、住宅も含めてインフラになるものが面白いという話があって、大山さんが好きなものを並べてなんとなく分かった気がしたんですよ。
大:うん。面白いし、インフラのものとか土木のものって言うのは…いっつもそういう話になったとき、それを言い表せるうまい表現はないかなーと思っていっつも悩むんですけどまだわかんないんです。ずっと考えているんですけど。
梅:なんですかね。でかくて異様ですよね。
大:うん。なんだろうな。そこにぬっとあるもの。で、土木だったりインフラなものというのはこっちを向いてないんですよね。実は景観に気を使ったりとかいろいろやってるんですけど、だけどごてごて飾りつけられるほどの予算もない、となったときに、結果から見ると見られことをあまり気にしないようになるんだけど
梅:まあ商業施設は必ず気にしますけどね。
大:僕が面白いと思えるものはうまく言えないんだけど「これは見られることを意識しているものです」というものはそのデザインのクオリティとか内容そのものより、見られることを意識しているということだけがメッセージとして伝わってちゃんと見られる。こっちを向いていないのは「これは見られるためにデザインしてないですよ」というのだけが伝わって、結果、ちゃんとそのとおりみんな見ない。それはデザインの内容と言うよりも、見られることをどれだけ意識しているか、ということだけが伝わって、みんなその通りにちゃんと見たり見なかったりする。それが僕は面白いと思う。
大:この話は難しいんだよね。うまく未だに説明できないんだけど。
梅:観光地に行って、がっかりするじゃないですか。見たっていうことに意味があるからみんな『おーっ』て思うけど、いや、そんなすごくないぞってあるじゃないですか。
大:ええ(笑)
梅:あれの逆というか。
大:あれの裏返しですよね。冷静に観光地にあるものとかを見たらほとんどのものはがっかりですよ。
梅:がっかりですね。
大:だけど観光に来た。そこに行った。見るべきものを見たっていうメッセージだけを受け取ったり自分で発したりして満足するわけでしょ。
梅:それはつまんないですよね。
大:僕はつまらない。

メッセージになるのはいやだ〜意味を持たずにものを見ること

大:でも、みんな騙されているよ、みたいなメッセージになるのはいや。そういうことが言いたいのともちょっと違う。上から目線で『君ら分かってないでしょ』となるのは本位ではなくて、なんだけどあんまり専門的な目線にもなりたくないし、そのせめぎ合いで難しいですよね。
梅:団地って目立つために作るものじゃないじゃないですか。だから見られないように作っていて、そのまま見られなくなっているというのは、なんですかね。
大:見られるべきものじゃないですよ。というのは伝わってるからみんなそのとおりに見ない。あんまり見ようとしない。
梅:団地を見るときは建築者の視点になったりしますか?
大:いや、全然ならない。
梅:でも、住民の立ち位置でもないですよね。
大:違いますね。
梅:大山さんは誰なんでしょうね。
大:誰なんですかね。
(沈黙)
梅:そこが面白いですよね。分かんないところが。分かんないというか、意味が出てくると面白くなくなることってあるじゃないですか。
大:うん。
梅:その、意味のなさなのかなーとか。別に、意味がないというのを楽しんでいるわけではないんですけど、メッセージって基本的に嫌いですよね。
大:あんまりねえ。そうですね。団地は特にメッセージはないじゃないですか。
梅:まあちょっと、分かんないですね。これは。
大:うん、難しい。今まで何度も説明を求められたり説明しようとしたけどうまく言えないんだよな。

この対談のさらに詳しく掲載したものは5月発売予定の梅田初の単著「エレベスト」にて。


 
 
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