人目につかない場所を探して
代々木公園にやって来た。平日の昼間でも代々木公園には沢山の人がいた。公園を楽しんでいる人たちの邪魔にならないよう、なるべく人目につかない場所を探す。別に悪いことをする訳ではないが、万が一でも怒られたくないのだ。お尻に墨汁をつけた状態で怒られるのはご免だ。
しかし、人目につかない場所が見つからない。ある程度の人目は覚悟しないといけないようだ。
と覚悟を決めたその時、凄い勢いで娘を叱るお母さんの声が聞こえて来た。
幼稚園の年中さんくらいだろうか。お母さんから怒られて大泣きである。どうやら何かを人のせいにしているらしい。
「なんでもそうやって人のせいにして!」
とお母さんは娘が泣いてもひるまない。立派なお母さんである。立派なお母さんだけに、この人にはお尻書道を見られたくない。叱られそうだ。
とりあえずこの親子がいなくなるのを待つ事にしよう。
5分くらいして娘はようやく泣き止んだ。もう人のせいにしない、と言っている。お母さんの機嫌も直り、親子は自転車で帰っていった。
「人のせいにしたらダメだぞ」
泣き止んだ娘の後ろ姿に向かって心の中でエールを送った。
これで大丈夫だ。お尻書道の準備にかかろう。
まずは100円ショップで買ったレジャーシートを広げた。3、4人用のレジャーシート4枚である。
レジャーシートを広げた後に、近くでおじさんが寝ている事に気付いた。
なるべく人がいない場所を選んだはずが、すぐ側でおじさんが寝ていたのだ。場所を変更しようかとも考えたが、こちらに背を向ける形で寝ていたので気にしないことにした。
用意した道具をレジャーシートの上に並べた。
大きな半紙だけ東急ハンズで購入した。ハンズの店員さんのアドバイスで、障子紙を使うことにしたのだ。135cm×4.3メートルもある。これだけ大きければ伸び伸びとお尻書道が出来る。
マルチトレーの中に墨汁を入れる。お尻を入れた時に溢れることも計算して、トレーの7割りほどで止めることにした。墨汁8本、約1.2リットルである。
レジャーシートの上に障子紙を広げた。 ここにお尻で書をしたためる訳だ。
しばらく紙を見下ろして書のイメージを膨らませていく。書くべき文字はもう決まっている。あとはその文字をどう表現するか、である。
よし、時は来た。