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フェティッシュの火曜日
 
元祖の亀の子束子は三倍もつらしい


事の発端はこちら!

都電荒川線の三ノ輪橋駅で、右の写真にある古い看板を見かけた。亀の子束子(たわし)の広告のようだが、これをみて「へー、亀の子束子に元祖とかあるんだ」と思った。

たわしのメーカーとかを気にしたことは一度もないのだが、「他品の三倍もつ」といわれては気になってしまう。

ずいぶんと古そうな看板なので、今はもう存在しない商品やメーカーの看板なのかとも思ったが、一応調べてみることにした。

玉置 豊



亀の子束子の元祖は、亀の子束子西尾商店

この看板がどこの会社のものなのかを調べるために、とりあえず「亀の子束子」で検索してみたところ、一番上に「亀の子束子西尾商店」という会社のサイトがでてきたので、見てみたら間違いなくそこの看板だった。

一瞬で調査完了。インターネットって便利だ。


こちらが板橋にある株式会社亀の子束子西尾商店の本社。大正11年の古い建物がかっこいい。

サイトを拝見させていただいたところ、どうやらこの会社が確かに亀の子束子の元祖らしい。亀の子束子というと、雑巾とかホウキとかと一緒で、あまりにも身近な存在過ぎて、元祖の会社があるとは思いもよらなかった。


失礼ながらずいぶん小さい会社だなと思ったが、よくみたら縦にずずずっと増築されていた。

亀の子束子の元祖、知っている人は知っているだろうけれど、私は全然知らなかったので、取材させていただくことにした。

 

亀の子束子の話はおもしろい

ご対応いただいた広報部の濱田さんに、さっそく亀の子束子の歴史や素材などを伺ったのだが、さすがはたわしを作り続けて百年以上の会社だけあって、だれかに話したくなるようなたわしに関する知らなかったマメ知識がポンポンと飛んでくる。


広報部の濱田さん。浴用たわし(というのがある)で体を洗っているそうです。

以下、亀の子束子の誕生秘話を、箇条書きと写真でお楽しみください。

  • 江戸時代にたわしがあったが、それは藁を編んでまとめただけのものだった。
  • 初代社長である西尾正左衛門が、足ふきマットを開発したが、耐久性が悪く返品多数。
  • 妻であるやすが、そのマットのブラシ部分を丸めて障子のさんを掃除しているのをみて、商品化を思いつく。
  • 亀の形に似ているし、縁起がいいし、水に縁があるので、「亀の子束子」と命名。
  • 「束子」という漢字は、初代が当時の漢学者に相談してつけた当て字。

こちらが亀の子束子を開発した西尾正左衛門さん。 奥さんのやすさん。この夫婦がいなかったら、亀の子束子は存在しなかった。

この足ふきマットの部品を使ってやすさんが掃除に使っていたのが、たわし誕生のきっかけ。 江戸時代にたわしと呼ばれていたもの。亀の子束子に比べると、道具としての洗練度が、うまいたとえ話がでてこないくらい違う。

右が原材料のヤシの実(パーム)。中身を取り出して、数週間水に漬け、繊維をとりだしたものが左の状態。 このシュロの木の皮を使ったたわしもある。こっちのほうが繊維が柔らかい。

続けて、歴史と現状など。

  • せっかく開発したたわしだが、15年で特許は切れてしまう。
  • しかし「亀の子束子」という商品名は、商標として今も生きている。
  • 亀の子束子に人気が出ると、類似商品が多数出現。裁判で争うのではなく、広告やパッケージデザインに力を入れることでオリジナリティをアピール。
  • 誕生して100年以上が経つが、基本的なたわしの作りはまったく変わっていない。
  • たわしの主な素材は発売当時からスリランカのヤシの実で、島全体で年間21億個とれる。
  • たわし作りはすべて手作業。
  • 現在はスリランカの工場で半製品のたわしを作り、本社工場で検品、包装をしている。
  • たわしで体を洗う人が多いので、1984年に浴用のたわしを開発した。
  • 浴用たわしなどのチャレンジングな商品は、和歌山の工場にて製造。
  • 現在は孫に当たる西尾松二郎さんが四代目社長としてこの会社を守っている。
これが発売当初の亀の子束子。現在売られているものとほぼ変わっていないのがすごい。 赤がパーム(ヤシ)のオリジナルタイプ。緑はシュロで柔らかいため、ホーローやテフロン向き。偽物と差別化するために、袋にうっすら亀の透かしが入っているので、気にしてみよう。

これは我が家で買っている亀。亀本さんという(ブログ)。甲羅が美しい。だからなんだという話で恐縮だが。 発売当初、まだ亀の子束子の存在が知られていないとき、興味を持ってもらうために、このように束ねて店頭にディスプレイしてもらったそうです。

浴用たわし。素材によって、色の白い社員の名前をとってサトオさんとか、固い性格のニシオくん(社長)とか、そういうネーミングセンス。 背中を洗う、くねりん棒サトオさん。夏毛の柴犬をなでているような気持ちよさ。私もタムラさん(ひも付)を購入したのだが、タワシ洗いはとても気持ちいい。

一つの発明が100年以上のロングセラー。

よく「主婦が特許で大儲け」みたいな話を聞くたびに、心底うらやましいなあと思っていたのだが、開発の苦労や販売の大変さ、類似品との戦いなど、そういう話を実際に聞いて、どうせなら宝くじに当たるとかの方がいいかなと思ったけど、買ってもいない宝くじに期待しても仕方がないので、やっぱりなにか開発したいなと強く思ったが、一晩経つとその思いが薄れてしまう自分が憎い。


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