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ちしきの金曜日
 
ご近所富士山の謎


よりによってバレンタインデーに開催しました
よりによってバレンタインデーに開催しました
(*すでに終了しています)

みなさん「富士塚」をご存じだろうか。過日建設中ジャンクションの橋脚を見に行ったとき、富士塚を見つけて報告したが、さいきんぼくはこの富士塚に夢中だ。いやほんとおもしろいよ、富士塚。

今回はその富士塚を愛でる「富士塚探求者」と富士塚めぐりをしたので、その様子をお伝えしよう。

いやほんとおもしろいよ、富士塚。とくにまさか新宿歌舞伎町に富士塚があるとは!びっくりした。

大山 顕



富士塚めぐりをするからおいでよ!と告知したら集まったものずきな皆さん。バレンタインデーなのに。
富士塚めぐりをするからおいでよ!と告知したら集まったものずきな皆さん。バレンタインデーなのに。

かなり個人的な「富士塚のここがおもしろい」

パット・アンド・マット」というチェコのアニメがある。これがぼくは大好きだ。いわゆるドタバタコメディなのだが、その「目的の見失いさかげん」がいい。

たとえばクッキーを作ろうとするパットとマット。材料の分量調整がうまくいかず、加えていくうちにどんどん量が増える。で、「コンクリートミキサー使えば良くない?」「おー!いいね!」とばかりにおよそ料理とは一線を画す次元に作業は突入する(この二人はいつもそうだ)。


今回巡った富士塚はこの4つ。(より大きな地図で 富士塚ツアー100214 を表示)

どたばたの末ようやくできたのに、クッキーは硬くて食べることができない。さいごは大量のクッキーをぬかるんだ道の敷石代わりにうまく利用してふたりは「やったね!」といつものガッツポーズ。

いやいや、それでいいの?クッキー食べるんじゃなかったの?

この「こうすればよくない?」って手段がエスカレートしていくうちに、それが面白くなっちゃって「えーと、そもそもなにやってたんだっけ?」ってわからなくなる、この感じ。これがいい。ぼくの普段の生活でもよくある気がする。


で、なんの話かというと、ぼくが富士塚にはこの「やってるうちに面白くなっちゃって別のものになっちゃった」感じがあっておもしろいと思ったのだ。

というか、説明が回りくどい。マイナーなチェコアニメなどに喩える必要がない。すまん。

 

で、富士塚がなんなのかというと


今回めぐったさいしょの富士塚「鉄砲洲富士」にわらわらと登る参加者一同。
今回めぐったさいしょの富士塚「鉄砲洲富士」にわらわらと登る参加者一同。

さて、ひじょうにわかりづらい感想からはじめたが、富士塚がなんなのかというと、それはいわば富士山のミニチュアだ。見た目は築山のような感じのもの。

江戸時代後期に庶民の間で「富士講」という富士信仰が流行ったのだが、当時は気軽には富士山まで行くことができない。

そこで、地元にこの富士塚を作り、それに登ることで実際に行ったのと同じ「御利益」を得よう、というコンセプトのもの。

そういうものが神社の境内にいまもたくさん残っているのだ。しってた?

「東京都区内で50基、関東全体では300はありますね」と有坂さん。彼女とはある仕事で運命的な出会いをした


この方が「富士塚探求者」の有坂さんです。
この方が「富士塚探求者」の有坂さんです。

そう、この有坂さんこそ、今回の富士塚めぐりを主催してくれた方。すてきな女性だ。一見、富士塚を愛でるような方には見えない。というか、どんな外見が富士塚を愛でるような方なのか知らないが。

富士塚の歴史には謎の部分も多く、これいじょう詳しいことを説明し出すと話が長くなるので、有坂さんの富士塚サイト「富士塚日記」あるいは、著書「ご近所富士山の謎」をご覧いただきたい。


有坂さんの名刺。すてき。
有坂さんの名刺。すてき。
くわしくは有坂さん著の「ご近所富士山の謎」で。
くわしくは有坂さん著の「ご近所富士山の謎」で。

で、この富士塚のどこらへんが「やってるうちに面白くなっちゃって別のものになっちゃった」感じなのかというと

1.富士山のかわりだったはずが工夫が加えられていってもはやザ・富士塚としかいいようがない感じになってしまっている

2.これらを作った庶民のノリがおよそまじめな信仰心とは異なる

という点だ。ぼくはそれがおもしろいと思った。


このごつごつした「富士山のかわり」はどうだ。富士山ってこんなにごつかったけ?
このごつごつした「富士山のかわり」はどうだ。富士山ってこんなにごつかったけ?

やおら謎の指示棒をもちだす有坂さん
やおら謎の指示棒をもちだす有坂さん
どうぞと差し出されて、問題のごつごつ岩に近づける参加者のおひとり。
どうぞと差し出されて、問題のごつごつ岩に近づける参加者のおひとり。

くっついた!
くっついた!

富士塚が富士塚たるためにはいくつか欠かせない要素があるそうだ。

「そのひとつが、富士塚の表面を富士山から運んだ溶岩で覆うこと」

なんと!このごつごつは富士山から運んできた溶岩なのだそうだ。びっくり。上、左の写真は有坂さん常備のさきっぽが磁石になっている指示棒。これをその溶岩に近づけると、くっつく!つまり、磁鉄鉱を多く含む玄武岩なのだ。


ぼくが思うに「富士山のミニチュア作ろうぜ」ってなったら、ふつうあの「いかにも富士山な形」を大事にするんじゃないかと。そこを、こんなふうにごつごつで黒い、富士山とは似ても似つかぬ形にしてまでも「溶岩使うほうが大事じゃない?」ってなるのがすごいと思った。

好きな女の子の写真を大事にするんじゃなくて、彼女が履いてた靴下のほうを大事にしちゃう、みたいなフェチっぽさが感じられる。

あいかわらず喩えが悪い。

というか、ねんのためいっておくが、ぼくにはそういう趣味ないからな。


富士塚の基本要素ともとの富士山にある要素。
富士塚の基本要素ともとの富士山にある要素。
前出の「ご近所富士山の謎」より。

鉄砲洲富士はこんな感じ

さいしょにおとずれた鉄砲洲富士にも、そういう「富士塚マストアイテム」がとりそろえられている。


山腹に実際の富士山にある「小御嶽神社」を表す「石祠」があり、
山腹に実際の富士山にある「小御嶽神社」を表す「石祠」があり、
頂上にはこれも実際の富士山にある「奥宮」とい浅間大神(いわば富士山の神様)を祀る社が必ずある。
頂上にはこれも実際の富士山にある「奥宮」とい浅間大神(いわば富士山の神様)を祀る社が必ずある。

また「烏帽子岩」という奇妙な石も。これも実際の富士山にあるものを模したものだとか。富士講の歴史上のヒーローである「食行身禄」という行者さんがここで断食の末に死んだというエピソードがあり、それをリスペクトしての配置。
また「烏帽子岩」という奇妙な石も。これも実際の富士山にあるものを模したものだとか。富士講の歴史上のヒーローである「食行身禄」という行者さんがここで断食の末に死んだというエピソードがあり、それをリスペクトしての配置。

5合目あたりをぐるりと一周するコースが設定されるのも重要なんですって。「中道めぐり」というものをイメージしているのだそうだ。実際の中道めぐりはカ国をきわめるが、富士塚ではちょうたのしい。
5合目あたりをぐるりと一周するコースが設定されるのも重要なんですって。「中道めぐり」というものをイメージしているのだそうだ。実際の中道めぐりはカ国をきわめるが、富士塚ではちょうたのしい。

山頂から。けっこう高い。不思議な感じ。
山頂から。けっこう高い。不思議な感じ。

鉄砲洲富士のアイテム一覧。
鉄砲洲富士のアイテム一覧。これも「ご近所富士山の謎」より。

実はぼくは本物の富士山には登ったことがない。なので、実際の富士山で印象に残る風景がどんなものか知らない。それでも、こういう富士信仰にまつわるアイテムだけが選ばれ配置された富士塚は、きっと本物の富士山とはまったく異なった風景を持ったものになっているだろうことは想像がつく。

きっと江戸時代には実際の富士山を訪れることなく、これが富士山だと思ったままの人がたくさんいたんだろうな、と思うとおもしろい。マンガのヒロイン像だけで想像がふくらんで、実際の女性をしらない中学生のようだ。

また喩えが悪い。


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