セレブになれない慣れないつけ爪
つけ爪はなんだかオシャレでセレブな感じがしていた。しかしやはり如何せん不自由だ。缶ジュースを買おうにも財布から小銭を出すだけで一苦労だ。やっと小銭が出たかと思うと、今度は小銭を自販機に入れるのも普段の3倍は時間がかかる。
やっとの思いで買えたかと思うと今度はプルトップが掴めない。掴んでも力が入らず持ち上がらない。爪を引っ掛けて持ち上げようとすると、爪が持っていかれそうで痛く、適所で出せば艶っぽい例の「あ!」を連発することになった。
再挑戦!
上で買った缶コーヒーは結局あけることができず、撮影をしてくれていた友人のS君にあげてしまった。仲間内では奢らないで定評がある僕が缶ジュースをあげてしまうほどにつけ爪は人を変えてしまう。僕の場合は優しくなったので、その点はつけ爪を評価したい。
場所を変えてもう一度缶ジュースに挑戦した。今度は人通りの少ないところなのでゆっくりとあけるのに時間をかけることができる。しかし、とにかくあかない。そもそもあかないことを前提に作られたものではないのかと疑いたくなるほどにあかない。
長い爪はセレブだと思っていたが結局あけることができず、口であけてしまった。魚肉ソーセージをいまだに口であけることがたまにあるがそれの応用だ。全然セレブでは無い。野生だ。そういえば野生動物って爪が長い。爪が長いと実は野生になるのかもしれない。
チャックがあかない
生活していれば自然とトイレに行きたくなってしまう。仕方が無いことだ。しかし、いざトイレに行って驚いた。ジーンズのチャックが掴めずあけることができないのだ。あけようとすると爪がどこかに引っかかり痛く、例の「あ!」と言う声が出てしまう。チャックをいじくりながらの「あ!」はまずい。
ここからが葛藤だった。撮影係りのS君がいる。彼にチャックを降ろしてもらうしかもう手段が無いのだ。だって小便はしたいがチャックがあかないのだから。漏らすとここから家まで約1時間の道のりを濡れた状態で帰らないといけないのだ。
企画中はすべてをひとりで行うことにしたかったのだが、結局あきらめて「ごめん、チャックあけて」とS君に頼んだ。S君とはもう8年の付き合いになる友人で、一緒に飲みに行くし、旅行にも行った。しかし、チャックをあけてもらったことは無かった。
チャックをあけてと頼んだ時の彼の顔を僕は忘れないだろう。
このトイレは東京のはずれの人が少ないところにあった。晴れていればもっと人がいてもおかしくないのだけれど、この日は曇っていて本当に人が少なかった。そんな所で、長年の男の友人に男の僕が「チャックを開けて」と頼んだのだ。
彼はチャックを開けてくれた。いい友人を持ったと思う。