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ちしきの金曜日
 
隣の部屋のおばあちゃんと仲良くする方法

ついに仲良く


コンコンコンコン…

僕の部屋にはインターフォンがあるけれど、隣の部屋にはインターフォンがない(僕の部屋は近年リフォームされている)。

なので、隣の部屋を訪ねる時にはこのようにドアをノックするのが正しいやり方だ。

しかし、「インターフォンを介さない」というだけで、なにかひどく直接的な物に触れている気がする。例えるならば、衣服からではなく、素肌。いや、おちつけ、僕は隣のおばあちゃんを訪ねているだけだ。

あまりうるさくならないように、しかし継続的に、ドアをノックし続ける。

「はい…どちらですか…?」
ドアの向こうから、まるで僕の緊張をそっくり写し取ったような小さな声が、聞こえてきた。
「こんにちは、すみません。隣に住んでいる斎藤ですが…」
「斎藤さん?」
ここで、ドアが開いた。


不安そうな表情

暗記していた文章を一気に読みあげる。
「あ。こんにちはー。実家からリンゴがたくさん送られてしまって…ちょっと僕一人では食べきれなくて。よかったらどうですか?」


こういうところはソツなく

と、この文章が読み終わるか否かのタイミングでおばあちゃんが声を上げた。


おばあちゃんビックリ

次はミカンを持ってこねば

そんな急に自虐的になられても

やった。警戒心なく受け取ってもらえた。しかも、ものすごく喜んでくれている。僕も嬉しい。

おばあちゃんは「こんな年寄りに持ってきてくれてねえ…隣が若い女の人なら良かったのにねぇ…」なんて言う。まあ、確かにそれはそうです。でもそんなことを言ったら、おばあちゃん的には僕みたいな若造じゃなくて、かっこいいおじいちゃんが隣に住んでいた方が嬉しいだろう。


まあ、どっちもどっちだな

 

パセリが気になっていたおばあちゃん

このあと話題は、僕が庭で育てているハーブの話に移って行く。

・イタリアンパセリを育てていますよね?
・あれ食べないの?早く食べないと育ち過ぎちゃっておいしくないですよ
・気になっていて、しょうがなかったのよ

この記事の1ページ目で書いたように、僕の部屋の庭と隣は繋がっている。隣から僕の庭のハーブを見ては、おばあちゃんはやきもきしていたのだろう。堰を切ったような興奮した話し方だった。


そのイタリアンパセリ。たしかにどう見ても育ち過ぎだわ

さらに園芸の話は続く。

・ブロッコリーを種から育てようとしていたでしょう?
・でもちょっと芽が出ただけで終わっちゃったよね
・この辺りの気候じゃ、種から育てるのは難しいわよ
・蕨(隣の市)と赤羽(隣の区)に良い園芸店があるのよ、そこで苗を買いなさい
・あ…でも、最近の若い人は赤羽なんて行かないかしらね


同じプランターの左側に種をまいたが、上手くいかなかった

たしかに、種を蒔いて芽が一時出たものの、そのあと枯れてしまった。おばあちゃん、ずいぶんよく見ているなー、と思う。

ただし、僕が蒔いた種は、ブロッコリーではなくてニラだった。全然違っていたのだけれど、なんとなくそこは訂正せずに、そういうことにしておいた。

それにしても「若い人は赤羽なんか行かない」というおばちゃんの若者観がちょっとズレていて面白い。赤羽は、マンガ『孤独のグルメ』とか『東京都北区赤羽』なんかで話題になっていて、猥雑な飲屋街が若者に人気の街だと僕は思う。

そんな立ち話を30分ぐらいして、今日のところは失礼させていただいた。コミュニケーションの中身はおいておいて、まずまず仲の良さそうな会話ができたのではないか。次回は、また園芸の話で盛り上がろう。

意外と簡単に打ち解けられた

案ずるより産むが易し、なんていうけれど、意外と簡単に仲良くなれてしまった。

ちなみに、この日から1週間くらいたったけれども、まだその後顔を合わせていない。次回会ときも、今回のように楽しいテンションで行けるかどうか。2回目こそが正念場かもしれない。

そう考えるとあの日から、毎朝ドアを開く僕の手が、微かにふるえているような気がする。

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