そういえばあいつらも情けないかも
他にも情けない顔はないものかと、本棚をあさってみて目に留まった本があった。いつだか買った魚の図鑑だ。
さまざまな魚が並ぶ表紙の中、大きく載っている青い魚。かっこいいとかきれい、といった言葉はどうにもなじまないその雰囲気。情けない、と言ってしまっていい味わいを漂わせている。
こいつは生で見てみたい。他にも魚類には情けない奴が結構いるんじゃないだろうか。
南の海の魚が集められている水槽はとてもきれいで、しばし見入って本来の目的を忘れそうになるところだ。しかしじっくり目を凝らすと、いたいた、図鑑の表紙に載っていた魚がいるではないか。
この魚は、ナポレオンフィッシュと呼ばれることもあるメガネモチノウオという名前の魚であるらしい。確かに表紙で見たような情けなさがそこはかとなく漂っている。
そしてしばらく見ているうちに気付いたことがあった。
正面から見ると、また印象が異なるのだ。ただ情けないというだけでないものがにじみ出てくる。
真っ正面から見ることで、顔の作りがややヒトと同じように見えるからだろうか。妙な親近感が湧いてくるように感じ、「そう言えば中学のときのSくんに似てるな…」と思ったりもした。
他の魚もできるだけ正面から見るようにしてみる。横向きで見ているときとは別の印象が感じ取れる。やはり、この角度からだと擬人的に見えるからではないだろうか。
しかし、それは今回求めている情けなさとは直結しないようにも思えるのはやや残念なところ。そう思っていろいろな水槽を見ていると、気になる魚がいた。
それはこちらの水槽。体のラインがきれいだったり、暖色系でカラフルだったりする魚たちがいる中、注目したのは写真右下にいる魚だ。
グターッと横になっているのがわかるだろうか。水槽の隅で、体を横たえてじっとしている。
なんとなく魚というのは、じっとしているにしても体は立てて漂っている印象があるのだが、こちらの魚は本格的に体を横にしてぐったりしている。
カメラを向けるとそれを怪しむのか、なんとなく逃げていく魚が多い中、この魚はじっと凝視してもこのまんま。
この感じだ、見たかったのはこのたたずまいなのだ。
色を分析するとピンクや黄色、オレンジといった明るい色もあるのだが、その明るさを吹き飛ばすかのようなぐったり感。
水槽の周囲には中にいる魚の絵と名前が掲示してあるのだが、そこで確認しても一致するのを見つけられなかったこの魚。南の海にもこうした生き物がいることがわかって、なぜか安心したような気持ちになった。
しばらく見ていると元気に泳ぎだしたので、別に弱っていたというわけではなさそうなところもいい。普通にこの感じをこれからもにじませていってほしい。