夜明け前、4時に家を出発
徹夜なんて久しぶりなので、変なテンションだ。 無気味に大きく見える筑波山の暗い影を目指して、車は生ぬるく進んでいく。 目指しているのは矢印のあたり。丘の上なので、風当たりも強い。 山にコンビニは無いので、あらかじめ牛丼を詰め込み、温かい飲みものを買ってから向かう。
丘の上では、風がごごーうごごーうと、地鳴りのような音を立てて吹いていた。気温は確実に氷点下だが、体感的にはもっと厳しい。突風のたびに背筋が縮こまる。 現在時刻は4時50分。水星の出は、5時09分。 まだ少し時間がある。ちょびちょび他の惑星を撮って時間をつぶした。
寒い
山から星があまりにもきれいに見えるので、盛り上がって写真を撮っていたが、すぐに寒くて耐えきれなくなり、車の中に逃げ込んだ。 (僕は寒さに非常に弱い)
寒いを超えて、生命の危機を感じる。手がかじかんで、カメラの操作もできない。これはやばい。 暖風に手を当ててあたため、なんとか動くようになったころに時計を見ると、すでに午前5時35分。 そろそろ水星が地平線の上に姿を現している時刻だ。
僕は車を降り、iPhoneを東の空にかざしながら、カメラを向けた。
あこがれの水星を発見!!
とうとう見えた、水星。 小学生の頃にあこがれた惑星。 ほんのりと朝焼けした地平線の上に浮かんできた水星は、何の変哲もない星だけど、僕の心を熱く揺さぶるものがあった。 子供の頃、東京に住んでて見えなかった水星。 ひとつだけ見たことのない惑星として、ずっと心にひっかかっていた水星。
あっという間に消えてゆく水星
上り始めた水星は、夜明けとともに吸い込まれるように空に消えていった。本当にあっという間だ。
蜃気楼のように目の前から姿を消し、後には夜明け前の空が広がる。遠くでは鹿島工業地帯の煙が、夜明け前の光に浮かび上がってきた。
朝が来る。
やっぱり今さら、望遠鏡買います
充実の観測だった。 子供のころ夢中になった星空に、今再び、同じくらい夢中になれた。思い切って筑波山に行って、本当に良かったと思う。 これを機にやっぱり望遠鏡を買うことにした。来週あたり我が家の財務省に相談しよう。
ところで今年の正月、帰省した際に、あのとき望遠鏡を買ってくれなかった理由を親に聞いてみた。 そしたら両親とも全く覚えておらず、最後には「お前は3人目の子供だったから、育て方が適当になっても仕方が無い」と返された。 返す言葉もない。 いまさら怒る気もしないが、世のお父さんお母さんには、「下の子供も大事にしてあげてください」と強く願いたい。