デイリーポータルZロゴ
このサイトについて


はっけんの水曜日
 
憧れの定置網に逢いたい


夢は大きく定置網オーナー。

もし自分がものすごいお金持ちだったら何が欲しいかという質問に答えるならば、私は定置網一式が欲しい。

私のイメージするそれは、海に仕掛けておけば毎日勝手に魚が入り、好きな時にいって欲しい魚を網ですくえる俺専用天然魚生簀。魚好きにとっては夢の四次元ポケットである。

なんて勝手なことを妄想しているのだが、憧れの定置網が実際はどんなものかよくわかっていないので、千葉の鴨川まで逢いにいくことにした。

(text by 玉置 豊 photo by 坂 祐次



鴨川漁協の定置網は大きいらしい

定置網を見学させていただくにあたって、先月の記事に書いた地引網でお世話になった富浦漁協の方に聞いてみたら、富浦にも定置網はあるけれど、見学ならば外房に面した鴨川の定置網がでかくてオススメらしい。

一般人が定置網を手に入れることはどうせ叶わぬ夢なのだから、いっそ車好きがフェラーリ一台欲しいというレベルの夢ではなく、F1チームのオーナーになりたいというくらいの大きな夢をみるべく、鴨川漁港の巨大定置網を見学させていただくことにした。


朝五時にやってきた鴨川漁協定置部。こんな部活があればよかったのに。
漁師にもタイムカードがあるんですね。

鴨川漁協に最初の電話をしたのが去年の11月。担当者の話では取材は大丈夫なのだが、網がメンテナンスのため陸に上がっており、今は漁をしていないらしい。ならばと12月に再度連絡したところ、今年の異常気象の影響かあまり網に魚が入ってこないという。

これは遠まわしな取材拒否なのではと不安になりつつ再度連絡した1月、まだ本調子ではないですがという注釈つきで、ようやくの取材となった。

この時点で、「定置網さえ持っていれば、一年中好きな時に魚を網ですくい放題」という妄想は、だいぶ違うんだろうなと気がついた。

 

鈴鹿サーキットが入るくらいの定置網

まず海へと出る前に、鴨川漁協定置部漁撈長の坂本さんから、模型を使って定置網の説明をしていただいた。

定置網の仕組みは、まず魚が通るであろう流れに当たるように長く張られた道網という目の粗い網に沿って泳いできた魚が、運動場(うんどうば)という広いスペースに入りこみ、その奥にある昇(のぼり)というだんだん浅くなっている部分を通って、最後は箱網という行き止まりの場所に集まるので、その網をあげて魚を獲るというものだそうだ。


コーヒーを飲みながら定置部漁撈長の話を聞くという贅沢な朝。定置網は免許制で、鴨川は大正5年からの歴史があるそうです。

潮の流れは常に同じというわけではないので、どう流れても魚が入るように運動場の入口は何箇所かある。この開きっぱなしの入口は当然出口にもなるので、ここの魚道を通る魚がすべて箱網まで入ってくれるという訳ではなく、獲れる魚は僅か5パーセント程度らしい。

入りやすくて出やすいのが定置網。そのおおらかな構造から魚を根こそぎ獲るということがないので、環境に優しい漁とも言われており、その巨大な存在自体が魚を育てる漁礁となっている面もあるそうだ。


鴨川の定置網は大小二つの網から構成されている。とりあえず、この模型を水槽に入れてメダカとか飼ってみたい。

ここまでの説明を聞いて、みんなもこの定置網が欲しくなってきたことだろうが、驚くべきはその大きさ。ここの定置網は日本でも指折りの大型定置網なので特別でかいのだが、なんとその全長は道網の端から端まで約1.5キロ。鈴鹿サーキットのコースがすっぽりと入るほどの広さなのだ。もう網というよりは施設である。

あまりに大きすぎてピンとこないのだが、この模型が750分の1。子供の頃に作ったガンダムが144分の1だから、実物は半端じゃない大きさなのだろう。

網は海の中に置いておくものなので、定期的なメンテナンスが必須。さらに何十年かに一度は流されたり壊れたりするものらしい。一度設置した網は簡単には動かせないので、潮の流れが変わって魚が来なければ打つ手なし。そして定置網は県知事が発行する免許制なので千葉なら今だと森田健作知事にお願いすることになる。

定置網を持つということはF1チームを持つようなものという例えはあながち間違っていないような気がしてきた。そう考えると一時的とはいえF1チームを持っていた鈴木亜久里さんってすごい。

やはり定置網はすべての面から個人で欲しがるようなレベルのものではないということがよくわかったが、だからこそ定置網には夢があるのだと思う。


海へ >
 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.