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土曜ワイド工場
 
中途半端な古地図をたよりに散歩する・江東区篇

深川平野町三丁目付近の貯木場は?

古地図の木場周辺の貯木場を眺めていて気になったのは、深川平野町三丁目(現在の平野三丁目)周辺にあった貯木場だ。木場周辺の貯木場は全て公園となっているけれど、現在も住宅地の平野三丁目周辺にあった貯木場は今どんな感じなのか?行って確かめてみた。

マウスオーバーで水路を表示します(全住宅案内地図帖・江東区2135,2136/公共施設地図株式会社1969)

昔の水門が残っていた!

古地図の住宅地図では「吉岡橋」となっている場所にやってきた。

(全住宅案内地図帖・江東区2136/公共施設地図株式会社1969)
当時の水門だ!
「ローラーゲート」はポピュラーな形式の水門らしい

当時の水路は現在「福富川公園」として整備されており、そしてその公園の入口として吉岡水門が残されていた。

 

水路と貯木場をつなぐ痕跡

福富川公園のコンクリート壁

さて、上の写真をよく見ていただきたい。何の変哲もないコンクリートの壁。じつはこの部分、下の地図でいうところの赤い矢印の部分なのだ。

(全住宅案内地図帖・江東区2136/公共施設地図株式会社1969)

両脇のコンクリートに比べ、真ん中のコンクリートは色が新しい。ぼくは土木構築物に関する知識がゼロなので断言はできないけれど場所はぴったりなので、多分これは左の貯木場と水路をつなぐ場所の痕跡だと思う。 これを発見したとき、かなり興奮して、撮影を手伝ってもらってた妻に「ほら、あそこだけコンクリートが新しい!水路の跡だ!」と教えたら「へー」とだけ言った。まぁいい「ふーん」よりはいくらかマシだ。


さらに橋と水路の痕跡を見つける

深川第六中学校の南側にある貯木場も結構でかい、この貯木場も確認しておきたい。

結構でかい(全住宅案内地図帖・江東区2135/公共施設地図株式会社1969)

貯木場や水路後が、マンションや公園として利用されることが多い中、駐車場は珍しいかもしれない。

駐車場…… 

地図には結構デカデカと「西宝橋」と書いてあるので、なにか橋の痕跡はないかさがしてみたけれども特に何も無い。ただ、先ほど発見した「橋のあった場所は道がちょっと盛り上がってることが多い」ということに気をつけて道路を見てみると、やはり西宝橋のあった場所は道路が少し盛り上がってる。

西宝橋跡? 

どうだろう、モコッと道路が少し高くなってるのが見て取れないだろうか? 

水路跡の上に建つURのマンション

ちなみに、この貯木場から川に接続する水路部分にはURのマンションが建っていた。さっきもURのマンションが建っていたけど、貯木場跡にはなぜかURのマンションが建ちがちだ。


貯木場は子供の遊び場だったらしい

平野周辺を地図で確かめながら回っていると、昭和44年の住宅地図に掲載されている酒屋さんを見つけた。ちょうど営業されていたので、ご主人にお話を伺った。

戦前からこの場所にあるという老舗の酒屋だ

−−すみません、このへんを取材してるんですが……こちらのお店はいつごろから営業されてるんでしょう?
「えーと、戦前からだけど」

−−このへんに貯木場が結構あったと思うんですが、覚えておいでですか?
「貯木場? あったねー(地図をみて)そうだねー、この貯木場はこの製材屋さんの貯木場だし、こっちの貯木場はこの店の貯木場だったような気がするな……」
さすが、地元の人だ。住宅地図をみると次々と記憶が蘇ってくるらしい。

−−貯木場の思い出とかありますか?
「思い出ねぇ、子供の頃はよく遊んでたよ、魚釣ったり、木に乗ったりして」
なんと牧歌的な風景だろう。しかし、そうとばかりも言ってられない。

−−木に乗ったんですか?
「今考えたら危ないけどね、子供は乗っちゃうから。浮いてる木の上を歩いたりするんだけど、中には足を乗っけるとなぜかズボって沈む木があったりしてね、 落ちて死んじゃった子もいたらしいよ」
風雲たけし城の竜神池を思い出した。たしかにあんなの小学生がやったら危ない。

−−死んだ子もですか……命がけですね
「工場に勝手に入ったり、製材所に積んである木材によじ登ったり、とにかく今考えると本当に危ないよね」

思い出を語ってくれる酒屋のご主人 

−−ところで、このへんにあった貯木場が埋め立てられ始められたのっていつごろですか?
「埋め立て? んー、覚えてないなぁ、中学生になると両国とか浅草に行って遊んじゃうから……わかんないなあ」
貯木場について考えるのは小学生までということか。



中途半端な古さは人の記憶を呼び覚ます

江東区はカッコイイ橋が多いなあ

さすが中途半端な古さの古地図。廃線や水路の位置が正確で、しかもその痕跡が今でも結構残っているのは、散歩をしててかなり興奮した。鼻息荒く散歩する、エクストリーム散歩だ。いつか同好の士を集めて江東区貯木場ツアーをしたい。

それから、中途半端な古さの地図は、その中途半端な古さの頃をしっている人がまだ沢山いて、そういう人に地図を見てもらって、思い出したとりとめのない昔話をしてもらうのも面白いということに気づいた。

工場の中に住んでたおばあさんの話も、ご主人が思い出してくれなければ膨大な歴史の中に埋もれて消えてしまっていたかもしれない。 そう思うと、そんな小さな思い出話や消えてしまいそうな記憶をもっとたくさん聞きたいと思った。


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