「っていうかさあ、こんなに水路があって、古い町並みなんかもあって、情緒たっぷりなんだから、資本投下して開発すれば、川越以上の小江戸っぷりになるよねえ、ここ」
「ほんと、いいところだよねえ。都心から1時間30分くらいっていうのも、いい距離だしねえ。やっぱ水があるのが、いいんだよねえ」
「水いいよねえ」
「川越もなあ、あんな感じじゃなかったのに」
「でもあれはあれで……」
R子と、言葉少なく歩く。彼女は身体を壊して会社をやめ、リハビリ休職中で「プー」なのだが、私が煮詰まったときには、たいてい付き合ってくれる。本当にありがたい。
私事になるが、私は先日、おじのお葬式に出た。長い闘病で、肺にくだを通し、延命処理をしたまま2年ほど過ごしたすえの他界だった。
喪主のおばは、通夜でも葬式でも、一度も取り乱さなかった。
お葬式にはどうしても遺族が泣いてしまうポイントがあると思う。例えば棺の蓋を開けて花を入れて遺体のほほをさわってから釘をうつ間とか、遺体を焼くときに点火する瞬間とか、泣き崩れる親族を、何度か見たことがある。
でもおばの背はまっすぐだった。視線はただぼんやりと、中空を見つめていたが、家紋の入った喪服姿の後姿は、とてもとても美しかった。
しかも彼女はその状況で、人に気をとても遣うのだ。「ユキ! 来てくれてありがとうね」と笑顔で言う。「いえ、その、はい……」喪服をきちんと作っていなかったので、間に合わせの黒いワンピースを着ていた私は、何かとても恥ずかしかった。
彼女が、うちの身内を精神的に支えている場面を、何度も見たことがある。今は彼女が泣き崩れて、誰かによりかかってもいい日のはずだった。でも彼女は笑ってまっすぐ立っていた。
「私は……あんなカッコイイ70代になれるだろうか……」
と、気が遠くなった。
歩きながらそのことをR子に話すと、「まだいっぱい時間あるじゃない」と言われた。それもそうだ。
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