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はっけんの水曜日
 
おとなの夏休み〜栃木ヤキソバ旅情編

R子と私は、交番と市役所に行って「扇風機とトマトのおばちゃんの店の他にも、今日やってそうなヤキソバの店」を紹介してもらった。



なぜかノレンのかかっている交番のおまわりさんも、やたらカッコイイ庁舎の市役所の観光課の人も、とても親切だった。
「でも今日、店って休みなんですよね」「昨日だったらねえ、祭りの屋台でヤキソバ出てたんですけどねえ」「あとねえ、地元の人が食べに行くところって、車で行かないといけないような、遠いところにあるんですよねえ、だから歩きの観光の人には行けないんですよねえ」「……あ、でもいま、やってそうな店、電話で確認しますからねえ」「……やってそうな店の電話番号が分からなかったので、向かいの八百屋さんに電話してみたら、営業してるみたいですって」

街のマップにマルを付けてもらって、その店へ歩く。
2件目、お好み焼きと焼きそばの店「おおで」も、また女性がひとりで店番をしていた。
「はい、いらっしゃい」
メニューを見る。
やきそば、お好み焼きの横に、「文字焼き」という謎のメニューがあった。
「……文字焼きって何すか?」
「あのねえ、もんじゃより、ちょっと濃いのよ」
「文字が書けるくらいの堅さってことですか?」
「そうよ〜。うまいこというわね! うふふ〜」
「焼きそばは、ジャガイモが入っているんですよね?」
「そうよ〜。あれ、ここらへんの人じゃないの?」
「あのう、やきそば食べに、東京から来たんです…」
「えーほんとに? 昨日、お祭りだったんですよ〜。あら〜」

文字焼き(ミックス)と、焼きそばを頼んだ。
「あ、あと、生中ふたつお願いします」
「ハ〜イ」

店内には「冬のソナタ」のサントラがかかっていた。

きんきんに冷えたグラスに、ビールがつがれてきた。んぐんぐんぐ、プッハー。

「おいしい…」
「おいしいわ…」
「生きてるって感じ」

しばらくして、「文字焼き」材料と「ヤキソバ」材料が盛られてきた。

「ハイ、サービスで大盛りにしちゃいましたよ!」
「あ、ありがとうございます……」


「おおで」栃木市みつわ通りぞい、11:00-10:00 第2.3て火曜日定休、と看板にありました。

文字焼きは、本当に独特な濃さであった。もんじゃとお好みの中間くらい。
ヤキソバは……1軒目の店と、麺が同じであった。びっくりするほど美味しくはなかったけれど、美味しかった。

そのあとチューハイを追加注文したが、2人分全部で2500円くらいだった。安い。
「あ、ちょっと待って。これ、あげますね、ハイ」
なぜか棒付きキャンディーをもらった。

さっそくアメを口にくわえる私。
「今日はみんな、栃木の人、やさしかったねえ」
「そだね」
「………」
「………」
「……あのさあ、年とったらさあ、年下にさあ、やさしくしなきゃいけないんだよねえ」
「まあ、そだね」
「……愚痴を言うんじゃなくて、聞くほうにならないと、いけないんだよね」
「そだね」
「……あんま自信ない」
「だからさあ、まあ、先は長いし」

そのあとスーパーで、栃木名物だという噂の「レモン牛乳」を探したけれど、無かった(あれは宇都宮のみに存在するものなんだろうか?)


スーパー(福田屋デパート)にはなぜか妙に「酒のつまみ」が充実していたような気がするのだけれど、気のせいだろうか。

栃木駅のキオスクで「温泉パン」(これも栃木名物)を手にとっているときに、携帯が鳴った。知人の編集者からだった。
「あ、どうも」「どうも、先日は」「いま電話大丈夫ですか」「あ、とりあえず大丈夫です」「……あのう、マイケル・ムーアの『華氏911』の便乗本っていうか、あげ足とりっていうかバッシングする本なんですけどねえ、作ってるんですけど、注釈書くの手伝ってくれませんか?」
私は裕福ではないし、たくさん仕事をとらなければいけないし……でもそれは、どう考えても引き受けたくなかった。
「えっと、いやああ〜、語学だめなんでえ、英文の資料とか読み込めないしい、今回はご遠慮しておきますう〜。お手伝い出来なくてすみませええん〜」「あ、そうですかー」「すみません〜すみません〜またよろしくお願いしますう〜」「あ、じゃあまたー今度また別件で連絡しますねえ〜」「はいはいどうもー」
私は自分の意見も言えないヘタレだなあ、と静かに落ち込みながら、レジでお金を払った。
ふいに、棺を開けたときの、おじさんの遺体を思い出した。なんというか、タイの死体写真集に載っている身体みたいだった、小さく痩せて、肌は骨に貼り付き、元気な頃の面影はまるでなくて、ただただ死体であった。
言葉にすると変だが、病気で死ぬのは健康的なことだ。それ以外で死ぬ要因を作ることに、鈍感になってはいけないと思う。


帰りの電車の中で、R子が言う。
「ねえ、この夏にやりたいこととかないの?」
「そうねえ、海にいくかなー。ゆきよちゃんは?」
「……なんかこう、ひまわりがいっぱい咲いているところに行って、ひまわりの頭をパンチしてきたい」

というわけで、来週はひまわりでも見てこようかな、と思っております。

温泉パンは、ベーグルとロールパンの中間くらいの固さでした。味は薄甘いです。うまし。

 

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