「あ、メルアド書いてあるのははじめて見ました。僕がトイレの写真を撮っていたころには見かけませんでした」 「え、6年前ってそんなでしたっけ!?」
「いじめにきまってるじゃないですか」 「いじめですかねえ」 「『イヂメ』って、ちに濁音の表記が、いまでもOKなのかが気になります」 「『ヂ』も、サブカル的な美意識の香りがする法則ですね」
「これは危ないから気をつけろ、ということなんでしょうか」 「でしょう」 「トイレで言われても、にわかに信じがたいですね。『チキチキマシン猛レース』で、くるくる回される山道の看板みたいです」 「というかトイレの壁に書いてある電話番号に電話しちゃう、その気持ちのキッカケが知りたいですね」
「……上のボーダフォンのメールアドレスも、中部ですよ」 「あ、そうですか!? ちなみに、この落書きの採集は、新宿・渋谷・池袋でやったんですけど……」 「……名古屋になにかあるのか!?」
「三丁目の夕日です」 「………ほのぼのまんがですよね。床屋とかラーメン屋にある」 「こういう意味がさっぱり分からないのが、いちばん恐い気もしますけどね」 「んー」 「風俗店で、こういう名前のところがあるのか? とか、深読みもしてしまいます」
「がんばるな、ってこれ、人生じゃなくて、排便についてのコメントかもしれません。力みすぎると痔になりますから」 「………」
「……わかったから。こういうのはネットに書けばいいのに」 「いや、もうこういうの、『独白系』落書きの、最北端だと思いますけどね」
「……これ、右側の、ドアですか?」 「壁の曲り角ですね」 「怒りは継ぎ目を越えて。」 「まあ、ミカがムカつく、と。」
「……まあ、そうですよね」 「いやこれ、続きがあるんです。『私は生まれたときから親の顔を知らないから』っていう……。」
「狼に育てられた少女かもしれませんね」 「……んー、嘘の香りがするのは、なぜなんでしょうね」
「こういう話は落書きの王道ですね。上から3行目の…のあとが汗になってます。まんがだ。」 「あと、漢字が1ケ所しかありませんね」
「……悩んんだとき、親に相談する、友達に相談する、専門家に聞く、いろいろ方法がありますが、トイレの壁に書くというのは、いちばん解決につながりにくいと思います」 「ねえ」
「……って言ってんのに答えるなよ!」 「だから、これは独白系の極北なんですってば」 「………おかあさん、東京はこわかところですたい!」