「紙に書いて貼ってあるのは、はじめて見ました」
「これねえ、座ってまっすぐに視線が行くところに、貼ってあったんですよ。なんかこう、落書きより気持ち悪かったです」
「手書きに比べるとやっぱり、パッションを感じないですね。活字より手書きか。……ネットってダメなのかなあ」
「いや、筆跡とか分かったほうが安心しますよ。情報量の少ないほうが、妄想をかきたてて、恐いですよ」

「これはパンツのシールですよね」
「ストッキングとかですかねー」
「男子トイレにもよくあります」
「あ、そうですか」
「パンツを汚してしまって、買ってきて履き替える、という。なぜ汚してしまったかというと、大惨事のあとなんではないでしょうか。デイアフタートゥモロー！」
「……女子トイレの場合は、そういう惨事のドレスダウンよりも、ドレスアップが理由になってると思いますけどね。彼氏に逢う直前に、新しいシャツ着ちゃう！　みたいな」

「……どうとでもうけとれる言葉たちですね。『昨日の敵は友』ぐらいなにも言ってない」
「ま、でもまあ……うーん。ま、物理的な排泄と同時に、生理的な排泄も、壁に書いちゃってんじゃないでしょうか」

「世界一周とインドが同等ってコロンブスみたいです。インドだと思ってアメリカに行くと、いっそうコロンブスっぽい！」
「中央に赤字で書いてある『天下一になること』も、抽象度が高くて気になります」

「すっかり一回りして、僕ってなに？　みたいになってますね」
「……具体的なアドバイスを言うとしたら、……『フィールヤング』とか、読むといいと思います。こういうのって、少女マンガの普遍的テーマですよ！」
「というか、とりあえず尻を拭いてトイレから出たほうがいいです」

「ま、そんなわけで、いろいろ見て頂きましたが、総評なぞを……」
「男子トイレだと、面白いこと言ってやろうってのが時々あるんですが、女子はやっぱり恋愛ですね。やり場のない女子力をぶつけている気がします」
「あー」
「乙女ちっくなことを書いているときも尻が出ているのかと思うと、『養生してください』という気持ちになります」
「………」
「あと、女子というと、色とりどりのサインペンを持っているので、落書きが色とりどりなのかと思ったら意外に地味でした」
「そういや、そうですね。ピンク色とか、なかったですね」
「写真の上に落書きするペンとトイレに落書きするペンは別なんでしょうか」
「あー」
「別だよな、やっぱり。
……でもやっぱりトイレっておもしろいです。トイレの壁は社会を映す鏡だとあらためて確信しました」
「そうすか？」
「…………………………僕も、もういちど、トイレマップやろうかな」
「え？」