３，風景を想像する

「自然を写し取って小さな鉢に再現するのが盆栽のテーマでもあります。松は冬の海岸や崖など厳しい環境をイメージして作られることが多いので、そんな風景を想像しながら観るといいんじゃないでしょうか」

派手な松柏なら、厳しい冬の海辺や崖の「ざっぱーん」という風景を、もみじなら葉をゆらす風の音を想像する。盆栽を前にして難しい顔をしたり目を閉じたりしている慣れ者になる可能性が見えてきた。

他にもいかに古く見えるかや、枝の曲がり具合などポイントはたくさんあるそうだが、まずは“正面”を押さえ、感じるままに観て欲しいとのこと。

観るべきとっかかりができると見応えが出てくる。ほんのちょっとしたことでいきなり盆栽との距離を一気に縮めた気分だ。

実際にライブで盆栽を観ていると、難しいことを考えなくても小さく再現された盆栽たちはどれも愛おしい。動物を見ているよう。

「来るまでは魅力がなかなか分かりにくいかも知れないけど、来て実物観てみるとハマるものですよね」
すぐ感動して興奮するといわれる私ですが、山田さんもこういっていることだし、確かにそうなんだと思います。

盆栽家への階段を昇りたい

これまで観てきた盆栽類はほとんど全て売り物だ。鑑賞法を知ったことで調子に乗って、ファースト盆栽をここでがっちりゲットしたい。……よし、買うぞ、盆栽！

盆栽はそれこそ樹齢1,000年を越えた作品もあるのだそうだ。作品の樹齢に人間の寿命がついていかないので、盆栽は盆栽家の間をどんどんバトンタッチして育てられる。

マニアの方は自分の作品を観て
「おれの寿命ではつきあいきれない」
と嬉しそうに言うんだそうだ。自分が死んでも自分の作品は死なずに生き続ける。ロマンむんむん。買うぞ！　とは言っても、そんな生ける芸術のお値段、恐ろしくて聞けない。

……。かわいいバラには棘があるとは良く言うが、どうやら松にも棘があるようだ。たしかにチクチクしてる。そうだよね、針葉樹だもんね…。それにしても73,500円とは。ちょっと私に手の出るところではない。

手頃そうな小さなものが置いてあるコーナーもあったので逃げるようにそちらへ。見ると、既に盆栽として完成している物ではなく、これから育てられる子供みたいな盆栽が。

山田さんいわく、丈夫な種類だからとか、初心者向けだからということは考えず、初心者こそ自分の好きなものを選ぶといいそうだ。

「好きな物なら、世話をするのが苦じゃないですよね。疲れてるから今日はいいかって思うんじゃなく、疲れてるからこそ世話したくなる」

まずは気に入った物を１つだけ１年かけてじっくり育てるといいそうだ。私も目を皿にして物色、梅の花が見られたらいいなあと、長寿梅を選んだ。

コツは必ず外で管理すること。家で鑑賞したい場合も３日に１日は外に出すといい。

「初心者の方はかわいいからつい家に入れたくなるけど、そうすると、もやしっこみたいになっちゃうんですよ。病気も出やすいですし」

山田さんは柔らかい物腰で植物を動物みたいに表現する。本当に盆栽が好きなんだろうなあとちょっと羨ましくなった。私も長寿梅を通して穏やかな心になりたいものだ。

「夏と冬を越すと育てるのに自信がつきますよ。盆栽園はいつでも相談に乗りますから、何かあったらいつでも鉢を持っていらしてくださいね」
ありがとうございます！　私の盆栽道もちょと開けてきた気がします。