下積み期間といえば大根の桂むき
板前の修行といえばお店の裏で大根を桂むきしているイメージである。手元を見ずに薄くむけるようになるまで最低5年はかかろう。一朝一夕に身につく技ではないのだ。
包丁を持たせてもらっているだけでありがたいことでごわす。
今日もお店の裏の非常階段に座ってひたすら大根を剥く生活である。剥きが厚いと親方にどやされるし、おそいと女将さんに足踏まれる。
正直つらい、でも職人になる、と宣言して田舎を出てきた手前、こうして包丁を持たせてもらっているだけでもありがたいと思わなくてはいけないのだ。おら、まけねえど。
というのはもちろんフィクションである。ぼくかてすでに家族を養っている身なので、これから下積みを経て職人をめざすのは興味あるけどリスクもでかい。今回はその気分にだけひたるため、コスプレで自分をだました。
まずはなにはなくとも衣装からである。なるべく下っ端っぽい衣装を選んだ。
帽子はそれっぽいのがなかったので画用紙で作りました。
次に大根の桂むきである。
撮影の時にリアルに包丁を持ち出すことは危険なので、大根はあらかじめ途中まで桂むきにしておいた。
下積み期間なので厚めでよろしい。
2メートル離れたらわからないだろう。
あとは路地に座って桂むきをしているだけで下積みっぽさが出るはずだ。やってみよう。
はやくいっぱしになりてえ。
どうだろう、写真にしてみると思った以上に下積み感が出ていないか。本当は高級料亭の裏で撮りたかったが、そういうお店はきっと本物の下積みが大根剥いているはずなので、バッティングしないよう、そのへんの路地で剥かせてもらった。
下積み修行がいると、どんなお店にもストーリーが生まれる。
おいら、下積みですから。
道行く人には「ほう、このハンバーガー屋は下積み修行を経た職人が作っているのだな。」と思われるに違いない。
おしゃれ石鹸屋さんの店頭でアワを立てるには最低5年の修行が必要。
あのスペインブランドにも下積みが。
一心不乱に大根をむく。普段の
不義理を反省しながら。
新宿にできた新しいビルにも職人がいる。
下積みのぶんざいでコーヒー飲みながらとはけしからん。
コーヒーショップでコーヒーを買っていたら、店員さんに
「え!もしかして向かいの店舗さんですか!」
と声をかけていただいた。恐縮しながら違います、と応えると
「でも修行ですよね、大根の桂むきしてる人、私はじめて見ました!」
と。
レジ周辺がちょっとした騒ぎになってしまい、いまさらコスプレなんです、とも言えず申し訳なくコーヒーを持って外に出た。でもおかげでちゃんと下積みっぽさが出ていたということがわかってよかった。
このお店で修行したい、と思いました。
下積みすごい
やってみてわかったのだけれど、道行く人を眺めながら大根を剥くのはかなり集中力を要する。つい人に目がいってしまうのだ。これは確かに修行としては技術も精神力も鍛えられるかもしれない。下積み期間にこれをやらせる意味がなんとなくわかりました。