先輩は胸のところに手をやって、にやりと笑った。彼女の方をちらりと見た気がした。
「ああ、これは自分ではずしたんだよ。誰にもくれって言われないとかっこわるいからな」
「またまたー。先輩なら引く手あまたでしょうに」
実際、先輩はとてもモテる人だったので、その心配は無用に思われた。
「いや、ほんと。ほら」
そう言って先輩はポケットからボタンを取り出した。
「むしろくれくれうるさく言われないように外してるんじゃないですか?」
そう言い返してからしまった、と思った。もしかしたら先輩は彼女に渡すつもりでとっておいたのかもしれない。どこまで気が利かないんだろう、ぼくは。 |