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ちしきの金曜日
 
アロエ部

「じゃ、そろそろ」
夕日がかなり深くなってきて、おしゃべりがすこしとぎれたところで携帯電話をポケットから取り出してちらりと時計を見た先輩が言った。今夜は仲の良いクラスメート同士で「卒業祝い」に出かけるそうだ。ぼくに、部室を出て行って彼女と先輩を二人きりにする気があるのなら、いまが最後のチャンスだ。

枝振りの良いアロエ
アロエ+室外機デュオ

「そういえば先輩、第2ボタンがないですね」
どうにかしてスムーズに部室を出なくてはならないと思っているのに、ぼくが口走ったのはそんな言葉だった。なにやってんだ、ぼくは。

スナック前アロエ
昭和のアパートにアロエが光る

先輩は胸のところに手をやって、にやりと笑った。彼女の方をちらりと見た気がした。

「ああ、これは自分ではずしたんだよ。誰にもくれって言われないとかっこわるいからな」

「またまたー。先輩なら引く手あまたでしょうに」

実際、先輩はとてもモテる人だったので、その心配は無用に思われた。

「いや、ほんと。ほら」

そう言って先輩はポケットからボタンを取り出した。

「むしろくれくれうるさく言われないように外してるんじゃないですか?」

そう言い返してからしまった、と思った。もしかしたら先輩は彼女に渡すつもりでとっておいたのかもしれない。どこまで気が利かないんだろう、ぼくは。


アロエのグリーンとえんじ色の壁のコラボ
街路樹スペースまで進出アロエ

「あ、ばれた?そうなんだよねー」

冗談めかした口調でそう言った先輩は、すこし考えて、

「これ、おまえにやるわ」

とぼくにボタンを差し出した。

「これで女の子にせがまれずに済むしな」

「え、ちょっと。なんか気持ち悪いですよ」

「まあ、そういうな。餞別だ。こううことがあってもいいんじゃないか?」

それなら彼女にあげればいいのに、と思いながら黙ったままの彼女をちらりと見た。彼女は笑いながらぼくらのやりとりを見ていた。背後にはすっかり暮れたグラウンドが見えた。

「それじゃ、な。ふたりとも元気で」

「はい。おせわになりました」

「ありがとうございました。先輩も元気で」

「おう。じゃあな」


 

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