月に導かれ話は怪しげな方向へ
みなさんの、知的レベルの非常に高い会話の途中、話の腰を折るほどに低俗な質問を投げかける女があらわれます。私のことです。
12年前から本格的に闇と絡みはじめた中野さんですが、恐ろしい体験をしたことはなかったのでしょうか。
「水量の多い沢の近くで、子どもの声でわらべ歌が聞こえてきたことがありますよ」
「熊に遭遇したことはないけど、気配は感じますね」
「たまに点呼をすると人数が増えているんじゃないかとちょっとどきどきします」
そういえば、今日も二回ほど点呼をしましたが、12人だか13人だか、最後までわからずじまいでした。
……。
それは中野さんのおおらかなお人柄のなせる技では……とも思いましたが、いやいややはり、月のせいということにしておきましょう。ロマンがあります。
そしてカマキリ伝説へ
霊の存在は信じていない私ですが、月の下で語る怪しげな体験ほど、ぞぞっとするものはありません。
その後、なんの話の流れからか
「私はカマキリが触れないのです。カマキリだけがダメなのです」
と発表しましたら、周囲のみなさんが驚異の声をあげました。
「ええええっ!!」
いやこちらのほうがびっくりです。
むしろ下界では、昆虫を触れる女としてめずらしがられるほうなのですが、まさかここで、
「カマキリも触れないのー?」
と驚かれる日がこようとは思ってもいませんでした。
さすがに月の下に集う方々は格がちがうと思い知りました。 |