ジグザグの登山道といい、配置されているアイテムといい、そして頂上のたたずまいといい、これまで見てきた富士塚とは一線を画すクオリティの高さを感じた。

感銘を受けたのは、今回の参加者の中にランドスケープ・アーキテクトがいらっしゃったのだが、この方が

「鉄砲洲富士と品川富士は"モニュメント"だったが、この音羽富士は"庭園"だ」

といっていたこと。なるほど、と思った。空間としてよくできている感があるのは、そういうことか。

残念なのは団地が見えないってことだな。

ホストもびっくり！西大久保富士

「モニュメント」でいえば、びっくりなのが最後にめぐった西大久保富士。「稲荷鬼王神社」という神社の境内にある。

びっくりポイントは2つある。まずはそのロケーション。まさかの歌舞伎町だ。

おりしも夕暮れ。バレンタインデーの夜に歌舞伎町で富士塚鑑賞。みんな、だいじょうぶか。

そしてロケーションもさることながら、富士塚自体もかなり意欲的。いざ目の当たりにした参加者も「これ…かあ…」って感じに。

富士塚ツアー、最後の最後でトリッキーな作品だ。

この西大久保富士、さいしょはちょっと戸惑ったぼくらだが、じっくり見ていくと、これがかなりおもしろい。

思うに、もともと富士塚は「見立て」ているものだと思うのだが、この西大久保富士はその極致なのではないか。

たとえば上の写真にあるように「5合目のほうが4合目より下にある」という事態。単純に見ればたしかにおかしいのだが、しかし、これは垂直方向の空間を水平方向に折り返して置き換えているわけだ。そういうことはよくある。たとえばこの文章だって、右に延々続くのではなく行末に来たら左の行頭に折り返している。

文章はもともと時間的なシリアルなものだが、それを紙面という平面に置き換えるときにふしぎな変換が起こる。この富士塚も同様だ。

って、ぼくがへんな理屈をこねるときは、興奮しているときです。いや、これおもしろいよ。

「おおくの富士塚が震災、戦禍、区画整理や規模縮小によって解体・移築を経験しているんです。この西大久保富士も、別の場所にあって、もっと大きかったのです」と有坂さん。

そう、好きこのんでトリッキーにしたわけではなく、苦肉の策の結果なのだ。それがおもしろい。

そして「見立て」でいえば、富士塚アイテムの表現もすごいのだ。

場所がなくなったからなのか、各アイテムが文字で表現されているのだ！いいのかそれで。

幼稚園のお絵かきの時間に、あまりにもうまく描けないのがもどかしくて、お日様の横に「たいよう」、地面のところに「じめん」、人物のよこに「ぼく」、って記述して先生にたしなめられたことを思い出した。そんな感じだ。

「まじめな信仰心だけではなく、庶民の粋な面白がりと御利益目当ての遊び心が見えるから富士塚はおもしろい」と語る有坂さん。

ぼくも3番目の出来の良い音羽富士より、なんだかよくわからなくなっちゃった感のある西大久保富士のほうが好き。