ブドウ畑でつかまって

ニョキニョキ別荘地帯の坂道は極めて急で、嘆かわしいほどきつい道のりだったが、こちらは一般的な車道とほとんど変わらず、歩くのも比較的楽だった。

15分程度坂道を登って行くと、路肩にポツンと小屋が建っており、その付近をおばちゃん数人がうろうろしていた。そのおばちゃんたちは、車が通る度にそれを止め、何やらチラシのような紙切れをドライバーに手渡している。

私がその小屋に近づくと、たむろしていたおばちゃんのうちの一人が「ブドウ狩りですか？」と声を掛けてきた。徒歩でここまでやってくる人は珍しいのか、何人かは驚きの表情を浮かべ、また何人かは呆れ顔であった。

体力の消耗が著しい中、さすがに男一人でブドウ狩りに興じる心積もりは無く、されど旬のブドウの味が気にならぬワケでもない。私はおばちゃんに「直売はやってますか？」と訊ねてみた。するとそのおばちゃんは、私に地図の描かれた紙を差し出し、「ここね」とペンで行き先を示した。

先ほどおばちゃん達に止められていた車の人たちも、このように、行き先を案内されていたのだろう。おそらくは、各農家に客を平等にいきわたらせる為の配慮なのだ。きっと。

とりあえず、教えられた通りの販売所へ行ってみる事にした。周囲はなだらかな丘陵の一面にブドウ畑が広がっていて、なかなか良い景色である。

これらのブドウ園は、どうやらブドウ狩りがメインのようで、直売はそのオマケみたいな感じらしい。まぁ、確かに、わざわざブドウを買いに山を登ってくる人などそうはいないだろう。せいぜい、ブドウ狩りを楽しんだ人たちが、家族や知人への土産として買っていくくらいか。

ここまで来て手ぶらで戻るのも癪なので、私も巨峰を買ってみた。1kg（3房）で900円。スーパーで買うより、かなり安いのではないだろうか。私はホクホク顔で山を下りた。