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はっけんの水曜日
 
宇宙で一番長くてくわしい宙博2010レポート

はやぶさ管制室と回収チームの秘話。

宙博すごいとこその15 ライブステージとレクチャーがおもしろい

宙博は展示や宙博キャラクター、グッズやワークショップも面白いのだけど、本当に面白いのはライブステージとレクチャーと呼ばれている講演だと思う。

国内有数の科学者が講演をするのだから面白くないわけがない。左の写真は29日のライブステージ「はやぶさ 〜管制室と回収チームの秘話〜」の様子。

はやぶさのカプセルを回収したときの苦労話や裏話を聞けた。はやぶさは全体的に壊れていたので、発信機が壊れていた場合に備えて望遠鏡で軌道を追っていた班や、天気が悪かった場合に備えて落ちてくる音で追っていた音響班なんかもあったそうだ。


ステージ前の席は満員。立ち見も出てました。

でも実際は天気がよくてビーコンも正常に作動し、あっさり回収することができた。ほぼ計算どおりの場所に落ちて、予想と違っていたのはカプセルがひっくり返って裏側が上になっていたことくらいだったとか。

本当に補足出来なかった場合は幅30kmほどの落下予測ポイントを人海戦術で探すつもりだったそうだ。ちゃんと見つかってよかったですね。

他にも、夜が寒くて寝袋の中で震えていたとか、日本に持ち込むときカプセルはファーストクラスだったけど研究者はエコノミークラスだったとか、ここでしか聞けなさそうな話がたくさん聞けた。


柴田一成先生。太陽研究のえらい人。

太陽と地球・生命

お次は太陽研究の柴田先生。太陽はもっとも身近な恒星だけどわかっていないことだらけ。例えば、太陽表面が6000度しかないのに、そのまわりにあるコロナと呼ばれる太陽の大気は100万度もある。それがなぜかはわかっていない。

黒点という太陽のシミみたいのがあるけど、それが出来る原因もわかっていないし、フレアやプロミネンスなどとどう関係しているかもわかっていない。

太陽表面ではよく小爆発が起こっているけど、その規模が大きいと地球にも影響があって、衛星が壊れたり停電したし、宇宙飛行士が放射線を浴びてしまったりする。

それを防ぐために必要なのが宇宙天気予報であり、太陽活動の解明なのだそうだ。身近な太陽一つとっても奥が深いのだ。


太陽活動が地球にどういう影響を及ぼすかという図解。
X線で観測した太陽は想像を超えた世界でした。

 

最初はお互いに紹介しあう展開。

B2Fのサイエンスホールではレクチャーが行われていた

宙博の講演会場は、会場のE地区にあったライブステージと、地下2階のサイエンスホールの2箇所があり、地下で行われたほうはレクチャーと呼ばれていた。

2日目、30日最初のレクチャーは「宇宙と生命をめぐる対話」と題して作家の藤崎慎吾さんと編集者の大牟田透さんの対談だった。

藤崎さんはクリスタルサイレンスで作家デビュー。「ベストSF1999」で国内1位を獲得している。小さい頃から創作が好きで、小学校の時に「地球を滅ぼした異星人と宇宙を旅する」という、銀河ヒッチハイクガイドみたいな話を書いたのだそうだ。

大牟田さんは、正月に年賀状を自分で配るという変な子供だったそうで、実はアニメ好きでラノベ好き。鈴宮ハルヒシリーズのファンだという。僕は小説のほうは読んでないのだけど、確かにハルヒシリーズは設定がSFっぽくて面白い。

まさか宙博の講演で鈴宮ハルヒとか出てくるとは思ってなかったので驚いた。


SFの話で盛り上がる。
まさかの鈴宮ハルヒトーク。

 

佐藤先生によるインフレーション理論の解説です。

宇宙はいかにして始まったか?

佐藤勝彦先生による、インフレーション理論の解説。創世記神話の話から始まり、ビッグバンモデルが生まれ、観測で実証される過程をわかりやすく解説された。

ビッグバンやインフレーション理論って言葉は知っていても、それがどういう事なのかは、あまり聞く機会がない。Wikipediaを読めばいいのかもしれないけど、本当に研究してる人が解説してくれる方がわかりやすいに決まっている。

最近は大統一理論(大雑把にいうと、世界のすべてを表す方程式です)は破綻し、インフレーションモデルもいくつも生まれているのだそうだ。インフレーションモデルのインフレだ。そんなことになっているとは全然知らなかった。

今期待されているのは重力波による観測。重力波の揺らぎを観測すればインフレーションモデルのどれが正しいのかわかると期待されているそうだ。

と、書いているが後半はもう、ひも理論やら量子論やらでなにがなんだかわからなくなってしまった。でたらめ書いてたらすみません。


4つの力の解説で現れたサルとアインシュタイン。
宇宙が生まれて30万年後の様子。サイケデリックですね。こんな柄のタオルが欲しい。

JAXAの津田雄一先生。サブプロジェクトマネージャー。

イカロスが切り拓くソーラーセイル技術

イカロスというのは蝋で固めた鳥の羽で太陽を目指して飛んで落ちた人のことではなく、ソーラーセイルという技術で金星を目指している探査機のこと。実験機なので金星に行って別になにをするってわけでもないらしいですが。

ソーラーセイルは、太陽光の圧力で加速するためのシステム。光が持っている力はとても小さいのだけど、無重力で機体が軽ければ十分な動力になる。イカロスの場合はついでにソーラーセイルで発電もしている。

イカロスの肝は、ソーラーセイルを綺麗に開く技術だ。ソーラーセイルというのは単なる幕で、骨組みが入っているわけじゃない。それを無重量空間で綺麗に開くのは大変に難しいそうだ。

地上で実験するのも難しくて、空気抵抗や無重力を再現するのが予算的に厳しく、深夜のスケートリンクでカーリングの石を重りにして実験を重ねたという。


イカロスがソーラーセイルを広げた状態を自分撮り。深宇宙まで行って自分撮り。
スケートリンクで実験。お金がなかったそうです。

 

ノリノリで解説する宮本先生。

火星 ─ウソカラデタマコト

東京大学の宮本先生による火星のお話は、宙博の講演で一番笑った。

まず最初は、アメリカのラジオで放送されて、本気で信じちゃってパニックを起こしたという「宇宙戦争」のエピソードから始まった。さらにイタリアの天文学者スキャパレリが火星の縞模様を溝(カナリ)と書いたら、うっかりさんが運河(キャナル)と訳してしまったが為に火星には知的生命体がいると信じられてしまった話や、それが探査機の写真によって否定されてしまった話。

でも、火星由来の隕石に生命痕跡っぽいものがあったり、火星の周りや表面は探査機だらけで調査が進んでいるという話が面白くて面白くて。会場は笑いが絶えなかった。


いきなりリトルグレイ。
メリケンは地球に帰れ!と言っている火星人。

火星表面の人面岩について。
東大で催されていた火星展は10月末で終了。

 

すごく難しいことをわかり易く説明してくれる村山先生。

宇宙に終わりはあるのか

東京大学の村山教授によるダークマター、ダークエネルギーの講演。

宇宙にあるもので、目に見えるもの、観測できるものは全体の5%しかなくて、なんだかよくわからないし観測できないけど存在しないと色々つじつまが合わないものが95%ある。

それらをダークマター、ダークエネルギーと呼んでいるがどうも正体がわからないのでみんな一生懸命調べているというのが最近の流行なのだ。

宇宙の始まりや終わりがわかっても、直ちに僕らの暮らしが便利になるということでもないのだけど、例えば地動説から天動説に変わったときに人の考え方が変わったのと同じような変化が人類に起こるかもしれないという言葉が印象的だった。

それこそまさに「人類は宙に触れて進化する」という事だろう。


宇宙にあって目に見えているものは5%程度で、残りは未知。
宇宙の未来はどうなるのか?

新しい話とかはないですよ、と前置きして講演開始。

はやぶさプロジェクトの川口先生の講演は満員立ち見

もっとも席が埋まったのは、はやぶさプロジェクトのプロジェクトマネージャーである川口淳一郎教授の講演「宙から空へ〜『はやぶさ』との歩み〜」。

はやぶさプロジェクトがいかにして発想され、どのようにイトカワに向かったか。どういう困難があり、どのように克服したかという興味深い話を聞けた。しかもプロジェクトマネージャー本人から直に。感激です。

あちこち壊れた挙句通信も出来なくなったときも諦めずに復帰確率を計算し、待ち続けた。地道に命令を送り続けた結果通信は復帰。その後も最後のイオンエンジンが壊れたり、2基のエンジンを接続して動かしたりして地球に帰還、オーストラリアの空に散ったのが2010年6月13日。淡々と解説される川口先生の声と、会場からはすすり泣く声が聞こえた。

はやぶさが成し遂げた小惑星からのサンプルリターンは世界初のことであり、科学の世界では一番でなければならないということも強調されていたし、会場からは拍手があがった。

アメリカは常に世界一を目指して国民に自信と誇りを持たせているが、日本はどうだ、予算を削り評価もしない。国民に誇りと展望を与えるポリシーが欲しいと話されていた。


はやぶさプロジェクトの成り立ちから解説。
あまりに美しいはやぶさが散った瞬間。

会場は満員、立ち見状態。記者席に一般の人が座ったり。
はやぶさ帰還後のお礼参りの様子。科学も最後は神頼みという。

 

もちろんはやぶさプロジェクトにもかかわっているお人。上のお礼参りの写真も写ってます。

『はやぶさ2』が目指す宙

第一部、川口プロジェクトマネージャーに続いては、吉川准教授によるはやぶさ2の解説。

はやぶさ2では、はやぶさと違ったタイプの小惑星を目指してます。はやぶさがS型と呼ばれる小惑星だったのに対し、2ではC型と呼ばれる、有機物や水を含む小惑星。その小惑星の表面に穴をあけて、地中のより外界の影響を受けていない小惑星物質を採集、持ち帰ることを目指しているそうだ。

まだ予算が確定してないけど、確定すれば計画が本格稼動。2014年に打ち上げ、2020年に帰還することを目標にしています。今度ははやぶさのように不具合は起こらず、ドラマチックな展開はなくてスムーズに帰還するでしょう、と吉川先生は言ってました。

打ち上げと探査、帰還が楽しみです!


小惑星探査の意義について。
結構な情報量で頭がパンクしそうでした。

どうです。魅力的なレクチャーばかりでしょう?宙博は展示とレクチャー、両方を楽しんでこそだと思います。

次のページでは、そんな宙博を作り上げた中心人物のインタビューです。なんていうか、心意気に惚れました。


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