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フェティッシュの火曜日
 
秩父でキャビアを作ってるぞ

さあ養殖場まで連れていってもらいますが、車がジープスタイルなのも理由があります。

秩父に養殖場を作る

チョウザメの養殖場で必要だったのは沢水(湧き水)と広い場所。だからチョウザメの養殖は山奥でやってる場合が多いのだそうだ。

「地図を買ってきて、沢って沢を毎日養殖場探し。まだ趣味でやってた時だから、月金は東京勤務で、週末こっちに来ては探して月曜の朝一番東京に向かってたんですけどね。」

この時の東条さんは週末養殖業者。当時の上司とか週末部下が秩父で養殖場探ししてるなんて思いもよらなかったろう。

「水が豊富なところはスペースがない。沢水(湧き水)が必要だから、そういうところは土地が狭い。」

結局、もう時間もないからここでいくぞ、という所に落ち着いたのだが、これがまさに、へんな場所!って声が出るところだった。


左手にスケート場跡、この後河川敷まで降りる

すごいところに来たな

道がだんだん細くなってきたな、と思ったらほんとに河川敷まで降りてきた。

どうやらこの辺りは冬になると全く日が当たらなくなるらしい。どうりで気温が低い。

途中、何か建物があると思ったらかつてアイススケート場だった名残なんだそうだ。

温暖化の影響か、最近では氷が張らなくなり閉鎖となったそうだが、数十年前は川が分厚く凍っていてスケート場として有名だったんだそうだ。

そして今やチョウザメである。変わった土地に変わった業種が来るこの現象は土地が持つ何かによる気がしてならない。

道じゃなく川の中ですよー

すごさがもったいない

あれは大昔の海底だったそうですよ、と地層がむき出しになった崖がそばにある。秩父古生層というらしい。

毎年大学の研究者がこの辺りにやってきて調査をしたりするような地層。化石もそのまま埋まっているという。

そんな川をジープでわたっていく。うわー、何か贅沢だなー。チョウザメもあるのに化石もある。

本当にここにチョウザメ養殖場を作る必要があるのか?地層っていうだけで満足しているのに、チョウザメ養殖はトゥーマッチじゃないか。

秩父の地霊はサービス精神が旺盛だ。


地層が丸見え
「自然を愛でる」って言い方をしてたけど、さすがにわっさわさですわ

色々いる

「いのししもいるしね、たぬきもいる。アオサギとか鴨も来るね。猿なんか何十匹といるよ、さすがに何十匹も見たときには気持ち悪かったけど。」

猪、狸、鷺に鴨に猿にチョウザメ。さあ、仲間はずれはどれでしょう?そんななぞなぞも一丁上がりである。

「秩父でチョウザメ」と初めて聞いた時もエッ!?となったが、現場でもチョウザメの場違い感はすごい。自然がまるごと「エッ!?」と声に出してるみたいだ。そりゃ猿も見に来るわ。



そしてここがチョウザメ養殖場。体重や飼育年数によって水槽が分かれている。

このチョウザメは存在しない

チョウザメチョウザメというけれど、一般的にイメージするキャビアのチョウザメはカスピ海にたくさんいるベルーガという種。そのうち絶滅危惧種になるそうだ。

そしてチョウザメにも30種くらいあるらしくて、このベステルという種は交配種。自然界にこのチョウザメは存在しないのだそうだ。

これだけ目の前にいて、自然界には存在しないと聞くと、つい「博士!」という気分になり盛り上がってしまう。


いた!

チョウザメは無敵

そしてこのチョウザメ、むちゃくちゃ丈夫なんだという。

まず主だった病気はない。温度は水温0〜30℃で生きのびるので冬でも大丈夫。エサをやらなくても一ヶ月くらいは生きると言われている。

酸欠に弱いので水を替えて、エサを24時間与え続ける必要があるらしいがそれは水槽でやってくれる。東条さんは毎日エサをセットしにくるだけだそうだ。

24時間エサを食べるならいつ寝るのか?と言えばこれが寝ない。マグロとかもそうだ。

まず全体的に死なない。

死なないってすごいな。おれも「死なない」になりたい。

来年の七夕にはそんな子供たちの「チョウザメに生まれ変わりたい」という願いが並ぶことだろう。


「この水槽にいるのは最初に買ってきて落雷事故があった稚魚の生き残りです」

病気がない魚、バタバタと病気で死ぬ

養殖をやっていてピンチだったことはありますか?と聞いてみたら、二度あったそうだ。

一つ目は冷水性の病気にかかったこと。

その時はいわしを混ぜ込んだ生の餌にして、水も塩をまぜてなんとか助かったといっていた。

生のいわしでなぜ助かる?門外漢なのでさっぱりわからなかったが、まあ、江戸時代もコレラを鰯の頭でなんとかしようとしたしな、と理解した。

理解したが、まあ多分間違っているのだろう。

「その時は全滅するかなと思った」と言っていた。うん、全滅はつらいよ。寅さんもそんなこと言ってた気がする。

二つ目は一番最初の釣り堀時代の話だが、落雷でポンプが壊れて一晩経ったらゴミが詰まって水が濁ってチョウザメたちが酸欠。

500尾が一割の50尾くらいにまで減ったんだそうだ。

落雷の音が聞こえたときに、もしかしたらキャビアの親たちがバタバタ死んでいるのかもしれない。そう思ったら今後雷の音が違って聞こえてくるだろう。


このウロコがチョウザメの由来です


チョウザメの由来

あれ背骨ですか?と聞いた、背中の模様。あれはカリカリに石化したウロコなんだそうだ。

ひし形のウロコが「チョウチョに似てるから」チョウザメになったというのが語源の有力な説だという。

「チョウザメのこのウロコは何に使われたと思う?」と東条さん。来た、突然のクイズ。


サメに似てるからチョウザメなんだそうで、種としては別物


せっかくのクイズを棒にふる

ああ、クイズらしいクイズが始まったな、こんなクイズ!不思議発見みたいな気持ちになるのは何年ぶりだろう…とうっとりしていた。

しかし間髪入れずに「答えは、刀のさやの飾り。」とクイズタイム終了。

あっ、と思った。

しまった、人生においてこんなクイズらしいクイズタイムはそうそうない。え、何!?だからこそうっとりしたんだけど、せっかくのクイズを棒に振ったのか?

チョウザメのウロコを使った刀のさやの飾りは鎌倉時代くらいからあるそうで、チョウザメは日本の近海にもいるそうで、北上川や石狩川の鮭の定置網にかかったりもするそうで…

あ、そう、近海のね。身近な魚なのね。そんな小さな情報も耳から耳へと抜けていった。

ショックだった。ああ、クイズ。もったいないことをした。


大きい16年物は130cm、16kgくらい。落雷の事故をくぐり抜けてきた精鋭たちだ。


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