風格系の大物登場
こうした物件になぜか心惹かれるのは、子供の頃に読んだ本が無意識のうちに影響しているからかもしれない。「ちいさいおうち」という絵本だ。
表紙の絵にもあるように、主人公は静かな田舎に立てられた一軒の家。物語の始めのうちは穏やかな日々が続いたが、時が経つに連れ、周囲の状況は少しずつ変わっていく。
子供に時間や月日、時代の変遷をわかりやすく伝えるという意味で、とてもよくできた本。そして、最終的に高層ビルに挟まれた「ちいさいおうち」の様子は、子供心にもかなりのインパクトがあるのではないだろうか。
悲しそうな顔をしているようにも見える、ちいさいおうち。本ではこのあとちゃんと救われるのだが、印象として強いのはビルの谷間にある場面だ。
こうした物件が発見されるのはどうしても都内が中心になるため、ビルの密集地帯であることが多い。それゆえ、ここまで紹介してきた物件は、すべて背後に建物があって、スカッと後ろが抜けていない。
その点こちらは後ろが抜けている珍しい例。落差がそれほどでもないことや、前に車がずっと止まっていたことなど、マイナス点こそあれど、レアな例であることには変わりがない。
家かと思ったが、近寄ってみるとこの建物は文房具屋さん。きっと古くからあるお店なのだろうと思う。
蔵前のあたりで見つけた物件だが、さらに駅の近くに行くと、また別の味わいのある建物が見つかった。
しっかりとへこんでこそいるが、実のところ周囲との落差はそれほどでもない。建物そのものの異彩でも惹きつけてくるタイプだ。
外壁の落下防止のためなのか、緑色のネットがかかってる心配ぶり。よく見ると右に少し傾いていて、隣の建物によりかかっているようにも見える。だ、大丈夫か。
「御蔵前書房」と看板の掲げられているこのお店。なるほど、古書店ならこのたたずまいも味わいになる。「大江戸・大東京関係・相撲文献」というのも、その趣きに拍車をかける。どんな本が並べられているのだろうか。
店頭に置いてあった箱の中をのぞいてみる。名探偵コナン、スーパードクターK、GTO…。普通のマンガではないか。ゴリラーマン、サラリーマン金太郎、クライングフリーマンといった、マン系も充実している。
まあきっと、店の中には看板にあったような専門的で貴重な本もあるのだろう。と思っていたら、のら猫がどんどん奥まで入っていく。ゆるい。
他にも店先をのぞくと、御伽草子・小林一茶・シェイクスピアと来て「縄文人の生活」。その続きも、ああ無情にフランダースの犬、最終的には「買ってはいけない」と、混沌はとどまるところがない。この混乱が古本屋ならではの面白さだ。