鯉のあらいとウナギヘッド(10:00)
鯉のあらいがやってきた。
「むかし住んでた家の前に、小さな池があって、そこでコイ飼ってたんですよね。そのコイを父が、思い付きで、さばいて食ってしまったことがあって」
「へえ」
「父は山間部出身で、沼でコイを釣って食べたことがあるらしくて。懐かしい味だったみたいなんですけどね。で、それはいいとして」
「はあ」
「父がさばいたの、ニシキゴイだったんですよ」
「………」
「こう、赤と白の……別におなかをこわしたりはしてなかったし、家族に無理矢理すすめることもなかったんですけど………でもそれ見てから、あんま積極的にコイを食べてみようと思わなくて、今まで食べなかったんです」
「………へえ」
私は箸を持って、酢みそをたっぷり付けた。おそるおそる口に運ぶ。はむ。
独特な歯ざわりと独特な風味がした。
「あのう、これ、美味しいのかまずいのか、わかんないですけど」
「そうですね、俺もタレの味しか分からないですねえ。それに俺、もともとホネが多い魚は好きじゃないんですよ」
「………」
「………」
ぐびぐびっ。ビールで鯉を流しこむ。
次にウナギの頭がやってきた。
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