車内は静か
車内は静かであった。
混んだ電車はあまりうるさくないものだが、それは朝の電車の場合。遅い時間の電車はザワザワしているものだ。
でも女性専用車両は、数人の女性グループの喋り声だけだった。ムっとした雰囲気がない。
中を見回す。女女女の見なれない光景に、不思議な気分になる。
携帯をいじる人。
駅にあったフリーペーパーを読む人。
文庫本を読む人は多かった。文庫本のカバーが革の人もいた。よく本を読む人なのだろう。
特に変なことをしている人はいない……ペットボトルのお茶を飲んでる人がいたくらいか。
皆くたびれていた。目を閉じたり、吊り広告をぼんやり読んだり、窓ガラスにうつった自分の顔を見たりしていた。
会話リスニング
ひと駅で降りて、次の女性車両にも乗ってみた。状況はあまり変わらなかった。
となりに立っていた女性2人組がお喋りしていた。会話に耳をすませる。
(20代半ばと見られる2人組、髪は2人ともセミロングのシャギーヘア、茶色い髪、スプリングコート、片方の女のコはイセタンの袋をぶらさげている)
「コンシーラー使いまくりだよお」
「ほんとに?」
「前はさあ、信じられなかったじゃん……シミとかシワとかさあ、できるなんてさあ」
「ねー。もう笑いジワとか、1晩で戻らなくなったよね」
「そうそう。ありえない、こんなの。すごいビックリするよね」
「ねー、化粧くずれがスゴイの、もう、鏡とか見るとゲーッてなる。前はこんな崩れ方しなかったもん」
「うーん、そうだよね〜」
「ねー、自分では若いつもりでもさー」
「寝ないときついよねー」
「夜とか全然あそばないもん」
「仕事とか大変なんでしょ?」
「そう〜。残業、9時まであったりしてさあ〜」
「ありえないー」
残業9時で辛いのかあ……と、元・徹夜常習会社員だった私は突っ込みそうになってしまった。でも彼女たちには彼女たちのリスクがあって、定時で帰るメリットがあるんだろうな、と思い直した。
「25過ぎたら顔だけでなく、身体じゅうの肉が変化していくんだよ、フフフ……」とも言いそうになったがガマンした。 |