登山の中止と母の助け舟 登山の一心で帰ってきた私を、埼玉の大地は盛大な雨天で向かえた。道、ぬかるみまくり。このコンディションでは登山は難しい。「やっほー」への希望の糸はぷっつりと切れた。 なんだなんだ、今回のこの企画倒れっぷりは。 もう、こうなったら家族と餅でもついて、その様子を特集記事にしてくれようか。完全なるヤケ状態で、母に泣きついた。どこか、どこか大声で叫べる場所はこの辺りにございませぬかー。 「○○団地の奥の高台の上は静かで開けてていいんじゃない? 雨振ってるから人もいないだろうし」 娘の唐突な問いに、母は簡単そうに答えたのだった。その高台の他に、さくさくと2、3の候補地を挙げてくれた。しかも、やや自宅からは距離のあるその候補地に車で連れて行ってくれるという。 山ほどに高さのある高台へ 私の実家のある団地は、いわゆる新興住宅街で切り崩した山間にドワーッと2,000軒以上の住宅が並んでいる。 密集した住宅が山に包囲されているという状態だ。つまり、ひしめく住宅の端っこからはどこでも山に登れる。 母が案内してくれたのはそんな“端っこ”で近頃遊び場として整備された場所らしい。着いてみると、確かにきれいな公園のような入り口がある。 入り口の隣は完全に住宅街だ。まさかここで大声を出す訳には……。と思ったが、入ってみると道は容赦なく上へ続いていた。登っても登っても上への階段が。 園内へ入る頃は、住宅街を走るさおだけ屋のアナウンスが鳴っていたが、登り続けるうちにそれも聞こえなくなった。 シューン、シューン、シューン セミの鳴き声だけが聞こえる。あたりには私と母しかいない。……静かだ。 |